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青い正しい夢を見る
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しおりを挟む「それをこんなオメガなんか連れてきて……跡取りなんてものは 脅してまで産ませるものなのか⁉」
「でも、でも、アルファは優れているのよ?上に立つ人間はアルファでないと」
息子の怒り方にただならぬものを感じたのか、奥様が駆け寄ってそう説得するが、それは火に油状態だったようだ。
言い争いは過熱して、今にも取っ組み合いの喧嘩に発展しそうだった。
「ここまでやってできてないんだから諦めろよっ!」
「 そうよ できないオメガが悪いのよね、だからちょっと落ち着きましょう」
「こんな事っ無駄なんだからさっ!」
また、『無駄』だ。
ずっと問いただしたかった言葉は、僕がこの屋敷でやってきた事を否定する言葉で……
唇の血を拭うと、指先が朱色に染まった。
殴られて、
耐えて、
それを無駄と言うのなら、僕はここにいる必要なんてないだろう?
「 無駄、なら 出て行かせてください」
いつもは僕の言葉なんか気にも留めないのに、呟くように発した言葉に全員が動きを止めてこちらを向いた。
集中する蔑む視線を受けて、知らずに体がカタカタと震えるけれど、今言うしかないと思った。
「お役に立てないのならば、もう ここにいる事も 」
「オメガが珍しくなければとっくに追い出してるわよっ!」
奥様に怒鳴りつけられて言葉が喉に詰まった。
「不良品でも他にオメガが見つからないんだからしょうがないじゃない!」
「 っでもっこれだけ試して出来ないのだから 」
「それは貴方の心構えが卑しいせいでしょうっ!」
大奥様の上げた金切り声にはっと体が強張った。
罪人でも見下ろすような嫌悪をむき出しの視線で僕を睨みつけ、隣の部屋とを隔てている襖を勢いよく開け放つ。
そこは大旦那様の世話がしやすいようにと水屋で、野村さんが夕飯の準備をしている所だった。
場違いな程、柔らかな出汁の匂いと魚の焼けるいい匂いが辺りを包む。
「大奥様⁉どうされました?」
「オメガの性根を叩き直してあげます」
胸を冷たくさせるような声に皆が動きを止める中、年寄とは思えない素早さで火にかけられた鍋を掴んで僕の方へと投げつけてきた。
ぐつぐつと白い泡が見えたそれは、これ以上ない程温度の上がりきった液体だった。
投げられた鍋がこちらに向かって放り投げられ、中から湯気を上げる液体が零れて幕のように視界に広がって……
さんざん踏みつけられた足の痛みのせいか、咄嗟に体が動かなかった。
「────っ!」
頭から被る!
そう覚悟して、せめて視界だけでも逸らせたらとぎゅっと固く目を閉じた。
「遥歩さんっ」
僕を突き飛ばした野村さんの声と、弾かれて後ろに飛ばされた衝撃、それから小さな熱い飛沫が手足に飛んで……
「 ────っ あぁぁぁっ!」
悲鳴を上げたのは僕じゃなくて野村さんだった。
僕の体はどこも熱くなくて……
「 あっ な、 んで 」
震えながら駆け寄ると細い腕が僕を掴んできて、野村さんに抱き締められた部分がどこよりも熱くて痛くて、苦しかった。
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