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青い正しい夢を見る
35
しおりを挟むもう立ち上がれない大旦那様は介護用のベッドの上で、虚ろな目でこちらを見ていた。その前に大奥様と旦那様、そしてすでに怒り狂っているのを隠そうともしない奥様がいる。
同じ部屋ではなく、開け放った障子を挟んで板の廊下にいる僕は、ただぼんやりとした頭で土下座するだけだ。
「 申し訳ありませんでした。また 残念な事に 」
隠そうとしない舌打ちと、ねめつける視線に頭を上げれないまま、もう一度「申し訳ありませんでした」と繰り返した。
蹴られるのか、
叩かれるのか、
けれどそうなる前に尋ねなければならない事があった。
「 けれど、正美さんには、もうすでにお子さんがいらっしゃるんじゃ ────っ‼」
どっと胸元に衝撃があって、僕の細い体じゃ堪え切れなくて床に向かって吹き飛んだ。
衝撃で頭が跳ねて、唇を切ったのか金臭い味が咥内に流れ出して、じくじくとした痛みに口元を覆って小さく呻いた。
「そんな事貴方には関係のない事よ!」
「 っ でも、跡取りならもうその子が っ」
「ベータが清水の跡を継げる訳がないでしょう⁉」
爪先をぐっと踏みつけられて、指が曲がって爪が皮膚に食い込む感触がする。
「アルファの跡取りじゃないと!だからこんなポンコツでもオメガを連れて来たんでしょう⁉」
「 ぃっ」
足の上で何度も地団駄を踏まれて、痛みに声を漏らしたらそれが気に入らなかったようだった。
「オメガも男オメガなんて不良品、女オメガが珍しくなければこんな気持ちの悪い物、家に来させなかったわっ」
「本当、男なのに子を成すなんて、気色の悪いこと。さすが畜生ね」
大奥様の声に頷く一堂に、胸の内がひやりとして……
僕は、人としても見られていない。
Ωだから?
突き付けられた言葉に目が回りそうだった。
「正美には子供が作れる証拠があるんだから、貴方の心構えのせいで子供が出来ないのよ、もっとよく畜生は畜生らしく仕えなさい」
脛を蹴り飛ばされて酷い痛みがしたけれど、声を上げるとまた不興を買うのでぐっと唇を噛んで堪える。
「 ────おい!」
痛みに立ち上がれずに廊下でうずくまっていると、板の間がびりびりと震えて怒気を孕んだ声が僕を飛び上がらせた。
息を切らせて、急いでここに来たと分かる正美さんは怒りでか顔が赤黒く、握り締めた拳は今にも僕に向けて振り下ろされそうな程震えている。
「正美!帰ってきたのね!お夕飯食べて帰るでしょう?」
「うるさい!母さんは黙っててくれ!」
大きな正美さんに押しやられると流石に奥様もよろめいて、渋々と言った風に座布団の上へと戻っていく。
項が、怒りの感情を拾ってからか、チリチリする。
「どこまで俺を脅せば満足するんだっ⁉家族の前に現れて、何を言う気だったっ!」
何を脅すのか分からなかったし、あれは偶然の出会いたっだのだから何か言う予定もない。
返す言葉を持たない僕は訳が分からないままに首を振るしかできず、それが更に正美さんを苛立たせたようだ。
「お前がっ ヒート時の相手をしないと、家族に番になったって言うって言ったんだろ!」
「っ⁉」
なんの話か分からず、首を振った。
「あんたがアルファのタネ欲しさに っ」
「まぁまぁ正美、せっかく来たんだ。そんなものに構っているよりこちらに来なさい、おじいさまにも全然会っていないだろう?もうちょっと起き上がるのが難しくてな?お前の顔を見たがっているんだ」
旦那様が正美さんを落ち着けようと腕に手を添えたが、興奮しているせいか正美さんは旦那様の手を勢いよく振り払って「うるさい!」と怒鳴りつけた。
「俺の結婚がそんなに気に食わないか⁉ベータだからか?ベータでもあの子はいい子だし俺は幸せなんだよ!あんたらに認めてもらわなくても!俺達は家族仲良くやって行けてるんだっ!」
びっと指をさされて、息が止まりそうだった。
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