OMEGA-TUKATARU

Kokonuca.

文字の大きさ
上 下
272 / 801
青い正しい夢を見る

20

しおりを挟む



 そんなに、人を不愉快にさせるのがΩなのだろうか?


 怒りよりも疑問が口に出そうで、ぐっと唇を噛み締めて聞いては貰えない挨拶をして診察券を出した。


 相変わらずこちらを突き放すような医師が大仰に顎をしゃくりながら「ん」と指示を出す。

「  っ  や っぱり、脱がないといけませんか?」
「はぁ?  君、何しに来てるの?」

 思わずこちらが飛び上がりそうになる程の声に、ひ っと小さく声が出た。

 怯える僕を見てにやにや笑った後、鉛筆立てから定規を取り出してその角でコツコツと机を叩いて見せる。

「清水さんの所がどうしてもって言うから、うちはオメガなんか診ないのに」
「っ  す、みません  」

 指先で定規をぎ と撓らせ、面倒そうに溜め息を吐く医者に頭を下げてズボンと下着を下ろし、言いつけられていた体勢を取って唇を噛み締めた。

 ひやりとした空気と、ぴっと空気を切り裂いた定規の音と肌を伝わって届いた尻たぶを打つ音を聞いて、火傷をした時のように嫌な鳥肌が立つ。
 追いかけるように痛みなのか熱さなのかよく分からない感覚がして、震えて崩れ落ちそうだ。

「さっさとそうしとけばいいんだ」

 小さく口の中で「すみません」と繰り返すも、医者は聞いてもいないし聞こえてもいないだろう。

 いつものように屈辱に奥歯を噛み締めねがら早く終わって欲しいと願っていると、ゾワリと背筋を冷たい物が走り抜けた。

「   っ⁉」

 医者の指先が、ソコへ触れるのはいつもと変わらないはずなのに……

「  ────っ‼」

 せり上がってくるような嫌悪感に反射的に体が逃げた。

 膝まで下ろした服のせいでよろけて倒れ込み、悪寒にぶるりと体を震わせる。

「あ、  」

 触れられた箇所から血の気が引くような、風邪でも引いたのかと思うような寒気と冷や汗が、一気に全身を襲う。

 何があったのか、自分の体が自分自身で分からない。

 ただ、嫌悪感と不安と、何かに縋りつきたい思いで震えながら医者を見上げた。

「ああ、首を噛まれてるのか」

 苦々しそうな声が上から降り、見下ろしてくる眼光の冷たさに息を飲むしかできなかった。



 胃を押し上げられるような気持ちの悪さに何度逃げようとしても、その度にパシンと定規で叩かれて身が竦んだ。

 医者の指が体内に入り込んでくる事に拒否感が募ってどうしようもなく、喉がぐぅっと鳴って酸い物がせり上がってくる。

「 ────っ  ぐ、けほっ  」

 口の端から垂れて床に胃液が落ちた事に、苛立ちを募らせた医者が舌打ちを零し、「つまらない」「面倒なだけになった」とぶつぶつと言って僕から離れていく。
 ぎしぎしと椅子を軋ませて医者が椅子に座り直したのを見てから、ぐっと奥歯を噛み締めて体を起こす。

 服を直すとさんざん叩かれた皮膚が布に擦れてちりちりとした痛みを訴えかけてくる。

「   ああ、もういいよ。子供はできてないから」

 こちらを見ずにそう言うと、「また一週間後に」とだけ言って僕の存在がないようにぺらりぺらりとカルテを捲り始めて、そんな医者に小さく頭だけを下げて診察室から退室した。


 できていなかった?


 思い出したように胸を悪くする嫌悪感を堪える為に立ち止まり、ぎゅっと眉間に皺を寄せる。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

上司と俺のSM関係

雫@更新不定期です
BL
タイトルの通りです。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

目が覚めたら囲まれてました

るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。 燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。 そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。 チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。 不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で! 独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。

【完結】別れ……ますよね?

325号室の住人
BL
☆全3話、完結済 僕の恋人は、テレビドラマに数多く出演する俳優を生業としている。 ある朝、テレビから流れてきたニュースに、僕は恋人との別れを決意した。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

真・身体検査

RIKUTO
BL
とある男子高校生の身体検査。 特別に選出されたS君は保健室でどんな検査を受けるのだろうか?

催眠アプリ(???)

あずき
BL
俺の性癖を詰め込んだバカみたいな小説です() 暖かい目で見てね☆(((殴殴殴

処理中です...