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青い正しい夢を見る
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しおりを挟む小さく響く秒針を幾つか数えて、それからふらりと立ち上がって古さの染み付いた部屋の中をぼんやりと眺める。
「 僕が、子供を産む?」
言葉に出すと急に不安になってきて、夕飯の準備に入っているだろう野村さんの方へと急ぎ足で向かった。
彼女はいつも通り、大奥様の飲む味噌汁の味を整えているところだった。
突然声を掛けた僕に振り返り、濡れた服と顔を交互に見てからにこりと感じのいい笑顔を作ってまずは体を拭かないと風邪を引くよ と注意をしてくれた。
手渡してくれたタオルで雫を拭きつつ、どう聞いていいのか途方に暮れてもじもしと足元に視線を遣る。どう言葉を包めばいいのか分からなくて、結局飾る言葉を見つける事が出来ないまま、笑顔に促されて口を開く。
「あ すみません。聞きたい事があって 」
「私に分かるなら」
ふふふ と笑う野村さんの作業の手を止めてしまったのを申し訳なく思うながら、それでもこの家の中で頼れる人はこの人しかいなかった。
「 あの、オメガ の、事なんですが、男でも子供が産めるんですよね⁉」
早口でそう尋ねると、彼女ははっとなった後に辺りの気配を窺い、誰も聞いていないのを確認してから僕を傍らに手招き、困ったように笑う。
「す すみません 僕、学校で習うくらいしか知らなくて 。今回の事も『正美』ってお名前だから女の人だとばかり思っていたんです だから、 」
「自分が子供を ってびっくりしてる?」
彼女にはさんざん見られているせいか今更だと言う気もしたが、自分の体をぎゅうっと抱き締めてから小さく頷いた。
犯された。
レイプされた。
蹂躙された。
襲われた。
言葉でだけならば幾らでも出るけれど、男の自分に子供を孕ませる為にその行為が行われたのだと言われてもピンとこない。
「オメガは男の方でも、赤ちゃんを産める なんて、不思議よね」
「 ────はい」
「体 大丈夫?」
ぽつりと投げられた問いに頷いて返す。
この暗い屋敷の中で、この人だけが僕の体を気遣ってくれるのが嬉しくて、小さく口の端で笑った。
発情期が来てΩと分かってから、本来ならば受ける必要のない誹りに暴力に叱責に……
ほんの数週間過ごしただけだけれど、世間のΩを見る目の異質さはよく分かる経験をした。
Ωと言うだけで、まるで躾のなっていない動物を見るような目を向けられて、こちらを見る目の中に籠る侮蔑の感情を剥き出しにされる。
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