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青い正しい夢を見る
16
しおりを挟むその視線が憐れんでいるようで、よく分からないままに自分を見下ろした。
擦り傷と、殴打の痕、それから飛び散った血と乾いた精液。
僕が何をされたか物語るソレを人目に晒していると言う事に初めて思い至って、隠す事も出来ないのにぎゅっと体を縮込めた。
「片づけをしておくのよ」
小さくなった僕にそれだけを告げて、奥様も屋敷の方へと帰ってしまった。それを見送ってから、野村さんが駆け寄って「大丈夫?」と問いかけてくれる。
そろそろと腕の傷に触れて、視線を項に遣ってから泣きそうになっている。
「なんて酷い事を 」
「ひど ぃ?」
「痛いでしょうが、体を綺麗にしてから手当てしましょう、ね?」
痛い?
どうして?
酷い事をしたのは僕の方なのに、酷く傷ついているの彼の方が被害者で……
だから、これくらい、なんともない。
よろけてまともに歩けない僕を心配して野村さんが風呂場まで付き添ってくれて、打ち付けたせいか上がらない腕のせいで服を脱ぐ事が出来なくて、申し訳ないけれどそれも手伝わせてしまった。
「 っ 先にお医者様に行きましょう」
さすがに正面を見せるのが恥ずかしくて後ろを向いていた僕にそう言い、先程腕から抜いた服を再び僕に被せてくる。
「奥様にお許しを貰ってくるから」
「いやっ大丈夫です!」
脱衣所から飛んで出てしまいそうな彼女を引き留めて、動かし辛い首を振った。
「痛みはなくて 本当に。消毒さえしておいてもらえたら 」
「そんな我慢は 」
「我慢じゃなくて……」
攣れてうまく動かないと言う事はあったけれど、動けないと言う痛みではなくて。
野村さんは何か物言いたげだったけれど、僕の言葉を飲んでくれて消毒だけを手伝ってくれた。
妊娠の結果が分かるまで、一か月。
大奥様が告げた言葉が分からず、ぽかんとした僕に湯飲みに残っていたお茶が掛けられて、そこで初めて僕が産む立場なんだと理解して飛び上がった。
体の中で幾度も幾度も吐き出されて、自分の体に何を求められているのか分かっていた筈なのに、改めて告げられてようやっと飲み込む事が出来たみたいだった。
赤ん坊を産む?
しかも、もうこの腹の中に居るかもしれない と?
まるでSFのあらすじでも聞いているような実感のなさに、やはり大奥様の気に食わない表情をしていたらしい。今度は空になった湯飲みを構えられて、咄嗟に固く目を瞑った。
「 っ」
衝撃が来るかと身構えていたけれど、いつまで痛みはこず、代わりにぽつりと漏らした声が耳に届く。
「 子供に何かあったら大変だものね」
そう言ってつまらなさそうに部屋を出て行った。
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