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青い正しい夢を見る
11
しおりを挟む暗い蔵の中は自室以上に陰湿な感じがした。
古い建物の臭いと、埃の臭い……
辛うじてある明かりは光量が足りず、物の多い蔵の中はほぼ暗闇だった。
「 ──── ひ」
吐いた息の熱さに戸惑って吸い込もうとしてもうまくいかず、焦らないように自分に言い聞かせてからゆっくりゆっくりと呼吸を繰り返す。
自分の吸い込んだ空気が内臓を擦る刺激だけで、震えるような快感が押し寄せてきて動く事すらままならない。
今にも芯を持って立ち上がりそうな股間を触って慰めてしまいたかったけれど、彼女が来る今日を逃してしまっては話が出来ない。初めての発情期で体験したあの狂ったような興奮状態に一度でも陥ってしまえば、発情期が終わるまでまともな思考が出来るとは考えられなかった。
だから、楽になれると分かっていてもソコに触れる事はできない。
小さな悲鳴のような呻き声を上げながら、なけなしの理性で布団をきつく掴んで波のように押し寄せる衝動を堪える僕の耳に、自分の立てる物音以外が聞こえてきたのは蔵に入れられてからずいぶん経ってからだった。
「 な 馬鹿な、 あ 」
「でもね ぁ、 」
「 ! っ⁉ もう、 」
「ここ オメ 」
微かに聞こえる争い合う声に、熱い息をぐっと飲み込んで耳をそばだてる。
一つは奥様のものだ。
もう一つの、男性の声に聞き覚えがなかった。けれどその声の持ち主に心当たりがあるかと問われても、何も思い浮かばない。
朦朧とした意識を何とか保とうと、きつく唇を噛んで顔を上げた。
声はもうそこまでで、扉の前で言い争っている。
「 ……何を 」
鼓膜を揺する声に体が震える。
────ギィ
軋む音が大きくなるにつれて、蔵の中の空気が引っ張られる感触がした。風が肌を撫でるのが不快なような、煽られているような不思議な感覚に目が回りそうだった。
「 子供じゃないか!」
支えきれずに突っ伏した僕の頭の上でそう怒鳴り声が響き、続いてまた争い合う声が聞こえてくる。
「しかも男とか!冗談も休み休みにしてくれ!いい加減放っておいてって言ってるだろ!」
「そんな事言っても、駄目なのよ?おじいさまとおばあさまに言ってくれないと」
「お母さんが認めてくれた ら 」
男性の声が止んで、小さく呻き声が激しい呼吸の合間に響く。
「な 、ヒートじゃ 」
怯んだ気配と共に、腕が力いっぱい引っ張られた。
「 っ、君!早く出て!」
それに引きずられるようにして体を起こそうとしたけれど、僕の体には一切力が入らなくて、上手く引っ張れないままに男性の手が外れてしまった。
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