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ひざまずかせてキス
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しおりを挟む相変わらずへらりとした表情と、小汚い格好と……
「遠慮しておく」
そう断って背を向ける。
相良には、オレの首筋の傷はどう見えているんだろうか……?
自分の所有物だとでも、言いたいのだろうか?茶化すような物言いで恋人恋人と繰り返す事もあるが……脅迫関係にある二人の間がそれだとは思えない。
そんなパワーバランスの崩れた関係なんて、服従でしかない。
会えば嬉しそうにするし、仕事に戻ると言うと拗ねもする。
けれど、だ。
「この関係は、何なんだろうな」
軋む階段から部屋を振り返ると、他の部屋の電気が一切付いていないせいかそこだけが切り取られた世界のように、ぼんやりと浮かび上がって見える。
先程まで居たはずなのに妙に遠い世界に思えて、足早にそこから遠ざかろうとしたが、くっと喉元にせり上がってきた感覚に立ち止まった。
ぐっぐっ と喉が鳴るのを宥めながらよろけるようにして、出来るだけ暗がりの目立たない場所まで何とか辿り着くが、そこが限界だった。
堪える事が出来ずにせり上がって来た物を吐き出し、嘔吐のせいで勝手に流れ出した涙を拭う。
酸い胃酸と、青臭くて白い……
嫌悪感しか湧かない、ソレをじっと見つめた。
名刺を補充していると、小さくキィと椅子が鳴る。
椅子に深く体を預けて、ぼんやりと煙草を弄んでいた大神が、こちらを怪訝そうに見た。
「名刺はまだ十分にあったはずだが?」
「あ 何となく不安で」
「何を悩んでいる?」
「いえ 何も」
とんとんと煙草を鳴らしてからシガレットケースに戻し、大神が体をこちらに向ける。
「相変わらず迷っているのか」
「道の話だったんじゃないんですか?」
名刺入れをスーツに直し、ふぅ と長い溜息を吐いた。
ぼんやりしている風で、この人はずっと何を考えていたんだろうか?
表の会社に関する事ならばどうとでも手を出す事も出来るが、オレに触れさせない部分の事に関しては無事を祈るくらいしかさせてはもらえない。
それが悔しくて……
「そうだったな。苛ついて間違えたらしい」
「温かい飲み物を入れますね」
コーヒーの方を好むが、苛つきと言っていたのでハーブティーにでもしようかと、キッチンへ行く為に背を向けると呼び止められた。
「いや、鬱憤晴らしに付き合ってもらおうか」
「手配しますか?」
急に空気が濃くなったような気がした。
頭を押さえつけるような、重厚な威嚇のフェロモン。
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