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ひざまずかせてキス
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しおりを挟む大神を乗せて運転中に他の事に気を取られてしまった事が、息を詰まらせて……
「申し訳ありません。すぐに引き返します」
「ああ」
いつもよりピリピリとした雰囲気に、それ以上謝り倒す事も出来ず、平静を装いながら深い呼吸を繰り返した。
ふとルームミラー越しに大神と目が合う。
肉食獣のような鋭さのある両目は、鏡越しだとしても見詰められると落ち着かなかった。それが他の事に気を取られた為に失敗した事を責め立てているようで、思わず視線を逸らしてしまった。
「…………」
やろうと思えば、やり様は幾らでもある。
それこそ、新反解体法をすり抜けていとも簡単に人をいなかった事にする、そんな仕事をしている人間も知っている。
自身でやろうとも思えば出来る。
簡単な仕事だ。
なのにその簡単な方法を取らず、あの男のいい様にしてしまうのは……?
金ではなく、泣き顔が見たいと請われて応じたのは……?
時間も取られるし、煩わしい事ばかりなのに……
「珍しく迷うんだな?」
「 っいえ、あいつはっ あいつの事はどうにかします!」
毅然と返したつもりだったけれど、大神の視線の鋭さが緩んでいない所を見ると、何もかも見透かされているのかもしれない。
どこまで知られた?
黒犬が話す事はないだろうし、そんなに態度に出ていただろうか と考えた辺りで、鎌をかけられたのかもしれないと気が付いた。
「道の話をしただけだ」
ちらりと視線を鏡に移すと、大神の口元が歪んでいるのが見えた。
いつ来ても、奇妙な建物だな と言う印象を受ける研究所は瀬能が先頭を行ってくれないと、歩ける気がしない。
するすると歩いて行く背中を見ていると、瀬能は迷う事はないのだろうかと疑問が湧いてくる。
中庭に面している廊下では景色が目安になってはくれるけれど、窓のない廊下は何も飾り気のないただの真っ白な面が続くばかりで、何度来ても見分けがつかなかった。
「こっちで眠ってるよ」
「薬は?」
「使ってない。 と、言うか使えない。草臥れて寝てしまったんだよ、体力のない子だね」
指の静脈を認証させて扉を潜ると、黒髪の少女が椅子に座りながらベッドで寝ている子供を覗き込んでいた。
横たわる小さなその少年を見て、幽霊じゃなかろうかと言う感想を持つのは俺だけじゃないだろう。
横たえられている白いシーツに溶け込みそうな銀に近い金髪と、同じ色の睫毛と、白磁よりも透明な印象を受ける細い手足のせいで、透けているんじゃないだろうかと目を疑った。
生きているのだろうかと思い目を凝らすと、微かな胸の上下が見て取れて、ほっと胸を撫で下ろす。
「よく眠っているな」
大神とオレが近寄ると、ベッドの傍らに座っていた少女がきつい眼差しをこちらに向けた。
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