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ひざまずかせてキス
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しおりを挟む相良の安っぽいアパートの階段を上がるのも、これで何度目になるのか……
チャイムを押さずに、渡された鍵で勝手にドアを開けて中に入ると、玄関から全てが見渡せてしまうような狭い室内が見えた。
乱雑で、まとまりがなくて、どこに何があるかわからない、相良をそのまま部屋にしたような男臭い部屋だ。
ちなみに、汚い。
常に汚い。
置かれた物がそのままで、動かされた痕がないと言う事は掃除した事もないと言う事だ。生ごみが山になっていないのだけが救いだが、相良はどうやって生活しているんだか……
「お。ナオちゃんきたー!」
退屈そうに見ていた小さなテレビをリモコンで消して、こちらを向いた相良は悪戯っ子のような顔だった。
「うるさい」
「なんでさ?テンション上がらないの?これから俺とイチャイチャ 」
「三十分で戻る」
「生々しい時間!コイビトと過ごすならもうちょっとさぁー!」
ベッドへの唯一の足場を塞ぐように座っている相良を押し退けて、布団がまったく干されていないベッドの上へと進む。
この部屋にはハンガーがなかったので、事前に持ち込んだハンガーにスーツ一式を掛け、こちらをニヤニヤと見上げている相良を一瞥した。
「かぶり付きで見るストリップもいいけど、もうちょっと色気が欲しいよな?ほらナオちゃん、ほら!ほら!」
時間が時間だと言うのにこの男は大きな声で手拍子を始めた。
さすがにオレでも、こんなアパートじゃ騒音問題が起こるのは知っている。ドアも壁も安っぽくて薄いのを隠そうともしない造りだ。
安普請な作りのここでどうして無邪気に大声を出せるのか、理解に苦しむことしかできない。
「おい、止めろ」
「セクシィ~に脱いでくれたら止めるよ」
軽薄そうな顔がへらへらと……
もういい年した男が、下着一枚を脱ぐだけにどうしろと言うのか。
困り果てて後ろを向いて尻を左右に振りながら、色気の欠片もないボクサーブリーフを落として見せるが、自分自身で何がいいのかわからない。
女のように柔らかな曲線であればまた違ったかもしれないが、生憎とこちらは直線で出来たような男の体だ。
「はぁ 」
太腿まで尻を振りながら下ろしてみたが、現実を見て溜息が出た。
「楽しいか?」
「いや全然」
真顔で言われたそれに腹が立って襟首を掴み上げたが、やはり相良はピクリともしない。
ヘラヘラとした軽い外見と違い、この服の下の体がガチガチに鍛え上げられた筋肉の塊だと言うのは、知りたくなかった事実だった。
「ちゅーする?ちゅー」
軟体動物のような舌がちらりと唇から見えただけで、嫌悪感がのそりと這い出してくる。
「そう言う冗談は止めろ」
「もー!ちょっと雰囲気とか!」
「そんな物いらん」
相良を掴み上げることは出来ないが、突き飛ばすことは容易だ。
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