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どっとはらい
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しおりを挟む「大神さ 大神の使いで参りました」
慣れぬスーツに身を包んだ青年はそう言うと、風呂敷包みを抱えたまま深く頭を下げた。
蒸し暑い、梅雨の雨が一時止んだ、そんな日だった。
腕の中にはひと抱え程の物体。
コレの中身は何か……と尋ねようと大神を見れば、不機嫌そうにいつもの煙草を吸っているところで、話しかけるのは得策でないように思える。
小さな紙片に書かれた住所の、柊と言う人物に見せてこい と言われたそれは、まさかヤバイものではなかろうかと思わせるには十分な重さだった。
ただ、形状を鑑みれば、警察の厄介になるようなものではない はずだ。
「職質されたら ど、どうすれば」
「堂々としていれば目をつけられることはない」
そう言われてしまえばそれ以上強く出る事ができず、一礼して引き下がった。
新幹線の中、人の視線を感じるのは慣れないスーツを着ている自意識からか、それともこれだけ人が多いのだから誰かしらの視線に晒されているからか……
落ち着かないままに車窓の方に視線を向けると、腕の中の無機物だと思っていた物がきしり と動いた気がした。
「 っ」
はっと辺りを見渡すも、誰かが手を伸ばして荷物に触ったと言うわけではなさそうだ。
ただ、冷静になってみれば、新幹線の振動で自分自身が左右に揺れているのだから、持っている物が動いたように思えても仕方ない事だと理解した。
似合っていないネクタイを弄るが、子供っぽかったのだろう?
また 視線に晒された気がした。
指定の駅で降りて駅前を見渡すと、地方都市らしい見慣れない看板が遠くに見えた。
少し深く息を吸い込んで、つかたる市に馴染んでしまったからか、他の街ではフェロモンの匂いがほとんどしない事に驚いた。
鼻先に、雨の臭いが絡む。
曇り空がまだ曇りである内に目的のビルまでたどり着きたいと、腕の中の荷物をしっかりと抱え直して足を踏み出した。
「 三丁目 えっと、これは何て読むんだ?」
町名の読み方を知る前に、住所にあった雑居ビルを見つけた。
廃屋ではない と言った程度にしか擁護できない、そんな古いビルだ。その壁面は年月のせいか塗装が剥がれ、ぼこぼこと波打ってどこか怪物の皮膚のようにも見えて、周りのもう少し新しいビルと何度も見比べてしまう。
その前で一人の青年が箒を動かしていた。
二、三掃いては箒に凭れ掛かるようにして休み、決して真面目に掃除をしているようには見えなかったが、雨が降りそうで降らない、けれど気温の高い様な日にはなかなか手際良く動けない物だ。
「 あの このビルの方でしょうか?」
声を掛けると、ふぅん?と猫のような動きでこちらを振り向き、雰囲気に良く合うアーモンド型の形の良い目をぱちりとさせた。
こちらを見て、はっと細い首に嵌められた首輪を隠すように、ざっくりとした生地のシャツのボタンを慌てて止めてから、改めてペコリと頭を下げる。
上気した頬に一雫、汗が流れて行くのが印象的だった。
「大神さんのお使いの方ですね、師匠の所へ案内します」
そう言うと青年はビルに視線をやった。
「四階なんですが すみません、ここ階段しかなくて」
「いえ、上がれます。大丈夫です」
慣れない革靴で歩いたせいか、足の裏がツキツキと痛んだが、ここまで来てエレベーターがないから とごねる気はないし、言ったところでどうしようもない。
青年に促されるままに、吹き込んだ土埃と雨で筋の出来た階段を進んだ。ざりざりと靴の下で感じる砂が不愉快で、そわそわと落ち着かない。
外よりひんやりとしてはいるが、湿気のせいか悪寒が走る様な気味の悪さがある。所々外に面していると言うのに全く明るさを感じさせない為、このビルだけ世界に取り残されたかの様だった。
「 っ、 は 」
二階に上がった所で青年の体がゆらりと傾いだ。
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