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狼の枷
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しおりを挟む「匿って、放り出して、頼らせて、突き放して、愛でて、拒んで。オメガじゃなくても傷付くのには十分だね。このまま彼が衰弱するようだったら、入院措置を取るよ!」
「 」
「聞こえているかい?」
「 ──────聞こえています」
そう返し、瀬能が呆れたのか言葉を無くしたのか沈黙してしまった携帯電話を直江に投げる。
「わっ どうされますか?」
「 」
努めて思い出さないようにしていたあかの姿が不意に脳裏に蘇った。
小さな体、
薄い腹、
細い手足……
頼りない、寄る方ない、
なのに思いの外しっかりとした足取りで、この腕の中から駆けて行く姿は力強くて……
「 直江」
「はい」
ちらりと視線を寄越され、直江は胸中で溜息を吐きながら頭を下げた。
歪な形の外観と物々しい警備、いつ来てもその研究所の纏うぴりっとした空気に慣れなかった。
徹底した入出管理と滞在者の体調の管理、特にα因子を持つ人間はリアルタイムで行動が記録されて監視されている。
「 凄いね、飛んでくるんだね」
急な来訪だったにも拘らず、瀬能は入り口で大神達を待っていた。
あの電話の後、すぐに大神がこちらに向かうと分かっていた口振りに、大神の眉間に皺が寄った。
「 こちらに用があったもので」
「あ、お見舞いかい?」
「 」
冷ややかに見返され、流石にこの話題はまずかったと瀬能は片眉を上げた。さっさと話題を変えた方が良さそうだと、大神が探しにきた人物がどこにいるのか知る為にタブレットを操作する。
「あか君に会いに来たんだろう?彼は今……」
「いえ、案内は要りません」
瀬能の制止も聞かず、大神が大股で歩き出した。
その足取りには迷いがなく、複雑に入り組んだ研究所の中だと言うのにするすると進んでいく。
「ちょ 君でもまずいんだよ!部外者が勝手に歩くと……」
「勝手にではないです。道標があるでしょう」
そう言って鼻を鳴らし、歩調を緩めずに大神は進んで行く。そんな大神に苦々しい顔をしながらも、瀬能は何も言わずにその後姿を見ながらついて行くしかなかった。
分かれ道で微かに歩調が鈍ったが止まる事はなく、大神はあっさり食堂へと到着する。
そこは時間のずれた遅い昼食を食べている数人がいるだけのがらんとした印象だった。
「どうしてここに?」
「 」
ちらりとだけ瀬能に視線を遣り、大神はやはり迷いのない足取りで食堂を進んで行く。
「 あか」
人気のない食堂の片隅で項垂れ、膝に拳を置いている背中は捨てられた子猫のようだ。
大神が声を掛けると、その背中が小さく震えて縮まってしまった。
「 ────なんで あんたが来たのが分かるんだ」
膝に置いた拳の上にパタリと大きな滴が落ちた。
「なんでこんなに 匂うんだ」
「食事をしていないのか?」
呻くように出される声には答えず、大神は隣の椅子に腰を下ろしてあかを覗き込んだ。
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