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狼の枷
22
しおりを挟むベッドの枠に錠の部分を叩きつけようとした所で、大神が止めに入った。
「手が先に壊れる」
「 っ 触んな!あんたがこんなの付けるからだろっ」
振り払おうとしても、大神の手は拘束具よりも強固だ。
「誰かが便所の窓に刺さるからだろう」
「ぅ 」
「普通は肩が通れば抜けるものだがな」
紫煙を吐きながら呆れ顔で言われると何も言い返せず、あかはむっつりと口を閉ざして俯いた。
「暴れるな。余計辛くなる」
「……も ぃやだ!」
放して貰えないと分かっているのに腕を振り払おうとして、バランスを崩してへたり込んだ。
「足に力が入ってないんだろう?」
「うるさい!」
そう怒鳴るのに、大神の表情は揺るがない。
床に座り込んだあかを見下ろしたまま、ベッドに腰を掛けて小さく溜め息を吐いた。
「強情だな」
もう一度「うるさい!」と怒鳴ってやろうと思ったが、息を吸い込んだ喉がひゅっと鳴っただけだった。
空気に触れた、内や外にさっと熱が生まれた。
全身の毛穴が開いて汗が噴き出す感覚がして……
傍らに座る男の匂いを感じて顔を上げた。
「 ぅ 」
じわりと首から胸にかけて汗が伝い落ちていく。
くすぐったいそれに身を捩る前に、慌てて首を振った。
「 っ。いやだ なんで 」
顔が熱い、
息が熱い、
体が……
鼻先を大神の匂いが掠める度に、腹の奥がぎゅっと絞られるような感覚に陥る。
痛いとも、切ないとも違う攣れる感じが怖くて、あかは腹を押さえて身を縮めた。
「これ また、ヒート……」
この腹の奥に何が欲しいのか、本能的な部分では分かっていたけれど、それを理解することが出来ずに顔を伏せたまま小さく唸る。
「 抑制剤……を 」
「駄目だと言われているだろう」
「 っ」
気持ちを落ち着かせるようにゆっくりと呼吸をしても、その熱は冷めてくれなくて……
「なんで こんな 」
腹と足の間で固くなり始めたモノも、染みて床を汚すんじゃないかと思う程濡れている後ろも、何もかもが受け入れ難く、体を丸めているせいか息が籠って苦しかった。
楽になりたい……
小さく喘ぐ合間に、逃げたい心がそう囁く。
楽になりたい……
そんな考えを振り払いたくて太腿に爪を立てて力を込めた。
「 ぅ、あ ぁんっ」
痛みで正気を保とうとしたはずなのに、口から出たのは嬌声で、足に感じるのは痺れるような快感だった。
痛いのに、それを快感として拾って体が跳ねる。
戸惑って大神を見ると、じっとあかを見詰めていた。
「やぁ……なんで 見て 」
「見られたくないのか?」
「らって ぇ はずか し ぃ」
大神の視線が肌を撫でるだけで、先端からはしたない液が溢れて下着に染みができたのが分かった。
「俺 は、 違う っ、あ……っこんなの、嫌だっ」
叫びながら拒否するのに太腿に置いた手はさわりさわりと自分の中心ににじり寄って行く。
「う 、どうして 」
服の上から股間を押さえただけで、震えが背中を駆け上がる。
下着のぬるつきに絶望しながらも勝手に手がソコを撫で上げ、もっと快感を拾おうと腰がゆさりと動く。
目が、ソコを見ている。
「ン んっ 」
見られながら撫でると、布越しなのに驚く程の気持ち良くて……
「や、ぁ……ひもちぃ のに 」
けれど と、あかは視線を床から上げた。
ひやりと内が冷えるような揺るがない目が見ている。
でも、それが欲を宿した際の熱さを知ってしまっていたから……
自身の与える水っぽい快感が物足りず、ぶるぶると震えながら煙草を薫らす大神の膝に額をつけた。
ああ、もう駄目だ と心が折れた音がして……
本能にへし折られた理性の部分が涙を溢れさせる。
「 お がみ、さ 」
名を呼ぶも、そこからどうしていいのかあかにはさっぱりだ。
けれど同時にこの男が自分を救ってくれると言う妙な確信もあった。
初めてのヒートの時も、
レヴィに引きずられていた時も、
街中でヒートを起こしかけた時も、
足を怪我した時も、
警戒して、碌々物を口に入れなかった時も、
この男はずっとあか自身と向き合って見つめ続けてくれた。
荒っぽく、優しさの欠片もないような表情で、冷たいのにじっと自分を見ている事を……知っている。
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