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花はいっぱい
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しおりを挟む苦しくても、顔を上げることができるようになるまでここにいるべきだと、逃げ出してしまいたい気持ちを抑えて拳を握る。
小さな秒針の動く音と、
時折聞こえる外の車の音と、
でも、そんな長い時間じゃなかった。
ふぅ と一息吐いて、六華の茶色い髪が揺れた。
「 喜蝶のことは、吹っ切れそう?」
色が白いせいか目の縁が真っ赤になると化粧をしているのかってくらい華やかになる顔をそろりと上げて、泣き言でも恨み言でもなく六華はそう尋ねてきた。
文句の一つでも言ってもいいはずなのに、まず最初に言うのがオレの心配と言うのが六華らしくて。
緊張が解けて尻もちをついてしまった。
「なん なんでそこでオレのことなの……」
つい呻いて出た言葉に、六華はちょっと赤くなって顔を伏せてしまう。
「だって、それでも、好きな人のことは優先したいでしょー……」
ああでも と続けて、
「 やっぱりかなり辛いかも」
ぷくっといつも通りの拗ねた表情を見せてくれるのは六華の優しさだ。
気が合って、楽しくて、優しくて、一緒にいたら毎日笑っていられるんだろうってわかるのに、喜蝶や忠尚に感じるような思いを抱けない。
心のどうしようもない部分が六華を傷つけてしまったのが苦しくて、酷いことをしたとわかるだけに言葉が見つからなくて膝を抱えた。
「ご めんね、 もう、かえ 」
「ストップ!薫を困らせたいわけじゃないし!そう言うふうに見られてないってのも分かってたし!だから今ここで帰られて友達にも戻れないの嫌だからっ!」
一気に言って、はぁ と息を吐き出した。
ぱちりと瞬いた六華の長い睫毛には、小さな雫がついて光っている。
「友達でも好きだよ。これからも、薫の味方でいるくらい」
目尻で震える水の球が転がり落ちないことを祈りながら、小さく笑っている六華に向けてぎこちない笑顔を返した。
紙袋を後ろに隠していると、六華の手がそれを指さしてからこちらに寄越すようにクイクイと曲げられた。
でも、これは忠尚の持たせてくれたもので、六華には気分的によくないんじゃないかと思うと、素直にそれに従うことができない。
ぷるぷるっと首を振ったオレをすり抜けて、止める間もなく紙袋を掴み上げて中のカップを取り出した。
「ああー、ちょっとぬるくなってる」
「六華 それ 」
「誰が作ったのかなんてわかってるよ」
やっぱり頬がぷくっと膨れる。
「でもここのコーヒー美味しいんだもん」
ミックスと書かれた方をオレに渡して、一緒に入っていたクッキーの袋を開けた。
小さな宝石の形のそれを摘まんで、首を傾げながら眺めて……眺めて……
「絶対、俺の方が将来イイ男になるよ?」
「うん、そう思う」
「……このクッキー、薫には上げないからね」
「 うん」
黙々とクッキーを食べるけれど、甘いものがそんなに好きじゃないのを知っているから、その小さな仕返しも結局自分に返ってきちゃってるのに……
案の定、三つ目を食べたところで手が止まってしまった。
「 銀花が好きそうだから置いといてあげよ」
素直に食べきれなかったって言ってもいいのに……
しょんぼりとして膝を抱えた六華が可愛くて、その隣に移動してこつんと頭を寄せた。
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