OMEGA-TUKATARU

Kokonuca.

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花はいっぱい

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 ほっとした顔になって、カウンター席を勧めて来るから首を振って断った。

「六華の   」

 なんて言えばいいのかと一瞬躊躇って、

「  お見舞いに行くから」
「調子悪いの?少し待ってもらえる?テイクアウト用で作るから持っていって」

 お見舞い で、いいんだと思う。

 寝込んでるって仁は言っていたし。

「ありがとうございます、喜びます」

 待っている間、カウンターのスツールに座らせてもらって、こっそりと言えないけど気分的にはこっそりと忠尚を盗み見た。

 黒い髪と、黒い瞳と、真面目そうな眼鏡。

 手を動かすたびに筋張った腕の筋肉が動いて、思わずそれを目で追った。

 時折、客と話して微笑む横顔が、ちょっと遠くて……他の人と喋って欲しくなくて。
 客商売なのに何を言っているのかと思うけど、営業スマイルでも他の人に向けられると胸がモヤモヤする!

「  ごめんね、もう渡せるから……」

 目に力が入っちゃってたのか、オレを見てびっくりした忠尚が急いで言ってきて。

「違う!違うんですって  他を見ずに……こっち見て欲しいなって  」

 って言ってから、恥ずかしいことを言ったと気がついた。
 オレの反応に忠尚はきょとんとして、それから耳まで赤くなって、小さく呻きながら紙袋を差し出してくる。

「いきなり反則技出さないでよ……」
「そっ そんなんじゃ 」
「天然だったらなおさらだよ、頼むから他でやらないでね?」
「だから、つい そんなんじゃ  」

 こほんと小さく咳き込みながら言って、改めてオレを見て微笑む。

「ご挨拶のことはまた改めて連絡するね、気をつけて行っておいで」

 微笑みに細められた目で見つめられると、きゅっと胸が苦しくなる。
 せっかくお見舞いの品を作ってくれたのに、中止にしてここにいたいな なんて欲が出そうになって、慌てて頭を下げた。

「ありがとうございます!いってきます!」

 小さく手を振って見送られながら、六華のマンションへと足を向けた。




 もっぱらオレの家に来ることが多かったからか、マンションのどこの部屋だったかがうろ覚えで、呼び出しのインターフォンの前で表札を眺めた。

「空き部屋? が、多いなぁ  」

 比較的新しい建物だし、セキュリティもしっかりしてるし、管理人もいるのに名前のない部屋が多い。

 あえて載せてないと考えた方が自然かな?

 幸い見つけることのできた「阿川」の名字の部屋番号を押してしばらく待つと、ひっくり返る寸前のような六華の声が聞こえてきた。

「薫⁉︎どうしたの⁉︎」
「どうって  お見舞い、かな」
「    とりあえず入って」

 声はいつもの穏やかな感じとは違って、ちょっと硬めだった。

 エレベーターで上がって、十階から見える景色にちょっと震えていると、一つの扉が開いて六華が手招く。

「こっちだよ」

 相変わらず隙がないほど綺麗に掃除された家に上げてもらい、いい匂いのする部屋に通された。
 久しぶりの六華の私服はオーバーサイズのパーカーで、それを着た姿はいつもより小柄に見えて、よく似合っていて可愛い。

「私服久しぶりだね、可愛い!」
「っ  可愛いって……褒め言葉じゃないよ」

 そう抗議する六華は頬を膨らませて……違う!

「六華⁉︎顔どうしたの⁉︎」

 微かな赤みと腫れに、顔を逸らそうとした六華の正面に回り込んだ。
 長い睫毛に縁取られた目が泳いで、オレを見ない。



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