OMEGA-TUKATARU

Kokonuca.

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花はいっぱい

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 ジュースを作る合間に出された小さなクッキーを指先で弄っていると、「元気ないね」と柔らかく尋ねられて、少しだけ口角の上がる笑い方に胸がキュッとなる。

 忠尚の傍にいると穏やかに心が凪いで……

 手元を見ていた視線がオレを見た。

「どうかした?」

 少しビターな、忠尚の香りがする。

「  家に帰りたくないって」
「えっ⁉︎」

 ぽつんとつい漏れた言葉だったけれど、思いの外びっくりされてこちらが驚いた。
 慌てたせいか手の中から果物が転がり落ちて、止めようとした手が台に当たって鈍い音が響く。

「ぃ   っ」
「ど、どうしたんですか?大丈夫ですか⁉︎」
「ごめ ごめん、ちょっと心が汚れてただけなんだ……」

 カウンターの向こうで頭を抱えてしゃがんでしまった忠尚を追いかけて、立ち上がって覗き込むと真っ赤な耳が見える。

 どうして?

 なんで急に と思い、自分の発言を思い返して、今度は自分が真っ赤になった。

「ちがっ  」
「俺が勘違いしちゃっただけで、ごめん!」

 蹲ったまま、忠尚はぱたぱたと手を振ってなんでもないと繰り返す。

「すみません、オレが変な言い方したから」
「本当にごめん!ちょっと 最近おかしいんだ  その、薫くんのことが  」

 覗き込んだオレを見上げて、忠尚は赤い顔を更に赤くして言葉を探していたけれど、少ししてから呻いた。

「  気にかかってしょうがないんだ」

 どう言う意味なんだろうか なんて、さすがにオレでも分かる。

 お互い真っ赤になって見つめ合って……

「こんなおじさんに言われても困るんだろうけど」
「忠尚さんはおじさんじゃないでひゅっ  ったい!」

 全力で否定しすぎたのか、語尾で舌を噛んだ。

 がちんと歯の鳴る音とわずかな血の味に冷静になって、そろそろとスツールに座り直した。
 舌を噛むなんていつぶりだったか?小さな子供に戻ったようで堪らなく恥ずかしい!

「口!大丈夫?」
「  痛い けど、平気です」
「俺が変なこと言ったからだよね」

 緩く首を振って、口を気にするフリをして俯いた。

 せっかく鎮まったと思ったのに心が騒つく。

「でも、あー……こんなこと初めてで、どう言っていいのか良くわからなくて。ただ 言葉を借りるなら、ベータが変なこと言ってるって思ってくれて構わないんだけど  」

 忠尚はとても言いにくそうで、言葉を探し探しだった。

「   運命、を  感じたかなって」

 え  ?

 眼鏡のレンズの向こうの瞳は真剣で、冗談を言っているようには見えない。

「いや  そのさ、笑ってもらえたら  助かるんだけど 」
 
 居た堪れないのか視線を逸らされて。でもオレはまだ忠尚の言った言葉の意味が良くわからなくて、ずっと頭の中でさっきの言葉を反芻してた。

 運命?

 少しビターな大人の匂いが強くなって、どっと顔に血が集まる。

「  オレ、え あ  」

 言葉よりも先に体が反応したんじゃないかな?って、それくらい先に顔が熱くなった。

「ごめ、学生相手に  何を、言ってんだか  はは」

 笑ってごまかそうとする忠尚の手の甲が赤いのに気がついた。さっきとっさに動いた時にぶつけたそこに、触れたくなって手を伸ばす。

「  手 触ってもいいですか?」
「これ?」
「はい」

 カウンターに差し出された腕にそっと触れた。




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