OMEGA-TUKATARU

Kokonuca.

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花はいっぱい

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 筋張った大人の男の手だった。

 オレや六華の柔そうな手じゃなくて、喜蝶の手を少しゴツくしたような、そんな感じ?

「あんまり見てると穴開くよ?」
「へっ」

 飛び上がると、やっぱり優しい目に見つめられてて……

 ドキドキして視線を逸らした。

「薫くん と、えっと 」
「六華です」

 昨日と同じコーヒーカップを受け取りながら答えるけれど、ちょっとトゲトゲしいと思ってしまう。

「そこの学校だよね?」
「はい、家がこの近くで  」

 心地の良い響きの声だな と、会話をしながら思う。

 特別低いってわけじゃないんだけど、聞いてるとくすぐったくて、くすぐったくて……

 六華から視線を外してカウンターを見ると、パチリと目が合った。
 それだけなのに、それが嬉しく感じるのは……

「  ねぇ、須玖里さんはアルファ?」

 唐突な六華のその質問は、女か男か聞いているような意味合いの不躾なもので、ほぼ初対面の人間にするような問いかけじゃない。

 慌てて何を言っているんだと言おうとしたけれど、須玖里さんは特に気にした様子もなく首を振った。

「僕はベータだよ、少しアルファ寄りかな?」
「すみません!須玖里さん、失礼なこと  」
「気にしないよ」

 それより と穏やかに切り出された。

「忠尚(ただなお)です」
「はい?」
「僕の名前、です」

 へ?とか、え?とか返したと思う。

 六華の拗ねた視線はわかっていたけれど、口の中で「忠尚さん」と呟くとぶわっと顔が赤くなった。

 ────ど と心臓が跳ねた!

「あのっ ごめ、ごめんなさいっオレっ」

 背の高いスツールから慌てて立ち上がり、熱い顔を押さえて頭を下げた。

「調子がっ  あの、  なんで  」

 この熱は……
 発情期の予定は明日で、念のためにと事前に抑制剤も飲んでいたのに。

 慌ててお金を置いて帰ろうとしたオレの手を、須玖里さん……忠尚が掴んだ。

 じわじわと、熱が……

 どきどきと、胸が……

「  お菓子みたいな 匂いがするね」

 汗が背筋を伝う感覚に震えが起きた。

 体の奥が焦れて、胸が苦しい。

「薫⁉︎もしかしてヒ……」
「こっちへおいで!」

 はっと目を見開いた忠尚が腕を引くのに抗えず、倒れ込むようにその腕の中に縋り付いた。間近で感じた忠尚の匂いに目が回りそうで、しがみついた両手が震えてうまく動かなかった。

「頓服は?」
「 っ、持って  る」

 その返事に頷いて、忠尚はレジ横の部屋へとオレを押し込んだ。



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