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花はいっぱい
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しおりを挟む図書室の角で蹲っているところに、「喜蝶は帰ったよ」と言いに来てくれた六華に小さく笑う。
「ありがと」
「…………、俺 余計なことしてる?」
オレの隣にちょこんと座り込むと、両膝を引き寄せて溜め息を吐いた。
「薫を悲しませたいわけじゃないんだ」
「うん 悲しんでるわけじゃないよ。ただ……こうやって避けるようになって、オレってずっと喜蝶の傍にいたんだなって痛感しちゃって」
二人の出会いなんて覚えていない。
家が隣同士だから、公園デビューする前から一緒にいた。
喜蝶の両親が泊まりがけの仕事も多いから、よくうちに泊まっていたし、連むのが自然だった。
昔は、十七歳になったらバース性のパートナーになろうと言い合ったりもしていたのに。
「ずっと一緒にいるって思ってたんだけどなぁ」
いつからだったっけ?
喜蝶が運命の相手を探すようになったのは……?
確か、授業で必要だからと一緒に母子手帳を見てて……オレがβ性だって分かった時だったかな。
βはαの運命にはなれないから。
ずっと一緒に居ようって言ってくれたこともあったんだけど、小さな頃の思いつきのような言葉をずっと信じてた。
「 って、ダメだダメだダメだ!気分落ちてる!」
「どっか気分転換する?」
遊びに行こうと提案されて、それなら と昨日のサービス券を取り出した。
「ここ 行かない?」
小さなメモの切れ端を見せると、六華は複雑そうな顔をして肩を落とした。
「そんな見え見えの下心に飛びつくの?」
「見え見えって そんなんじゃないって 」
と、思いたかったけど、やっぱりそう言うことなんだろうか?
リピーター作りたかったからじゃないかな?とも思ってたんだけど。
「ただ ミックスジュース美味しかったから」
「 コーヒーも美味しかったよ」
むぅっと口を尖らせて六華はじっとりとオレを睨む。
「年上が好き?」
「えっ」
「やっぱり望みないのかなぁ」
「あの、あの 」
グイグイ行ったことも来られたこともないせいか、反応に困ってしまっておろおろとしていると、小さな手がそっと重ねられた。
温かなそれにほっとする。
「気長に行くよ。そのうち俺は……背が高くなって、力持ちになって、経済力もあって、かっこよくなって、薫が抱いてって飛びついてくるような奴になる予定だから」
「なにそれ」
ふふ と笑いが漏れた。
「未来予想!」
「じゃあまず牛乳飲まなきゃ」
「う それは勘弁して」
しょんぼりとしてしまった六華の手を握り返して、オレ達はやっぱり昨日のお店『 la fluorite』へ行こうと決めた。
オレ達がドアから顔を覗かせると、懐っこい笑みで出迎えてくれて……
手招かれて空いていたカウンターへと進むけれど、六華はやっぱりちょっと拗ねていた。
「いらっしゃい」
「えと ミックスジュースが美味しかったから 」
「ありがとうございます!」
眼鏡の奥の柔らかい瞳に釣られて微笑み返し、昨日と同じミックスジュースとコーヒーを頼んだ。
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