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花はいっぱい
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しおりを挟む何度か試してやっと腕を離してもらえて、何か言い出す前に駆け出した。
腹を立てていても、あの性格なら追いかけてきたりはしないと思うけれど、後ろを見たら喜蝶に捕まりそうで、急いで足を動かして六華の待つ場所まで行った。
オレの様子がおかしかったのか、はっと目を見張った六華が駆け寄ってきて腕を掴んだ。
「どうしたの⁉︎何かあった⁉︎」
「……何もない」
そう言ったものの、六華の顔は浮かない。
オレの後ろにさっと視線をやって、きりりと眉を釣り上げた。
「喜蝶!嫌がってるだろ!こっちくんな!」
後ろをついてきていたのかとどきりとするも、家から学校までの道は決まっている。
オレを追ってきたと言うよりも、オレが喜蝶の前を行っていただけのようだった。
「あ?うるせぇよ。通学路だろ?」
「じゃあ離れて来ればいいだろ!」
つっけんどんに言い放ち、六華はさっさと歩き出した。腕を掴まれているオレは自然と引っ張られる形になり、駆け足でよたよたと後をついていくしかなかった。
「明日から、家まで迎えに行く!」
「ええっ大袈裟だよ!別に……何があったってわけじゃないし」
「何かあってからじゃ遅いの!」
そう言って頬を膨らませると、小さな子供が拗ねているようにも見えて、ちょっと笑ってしまった。
「それにまた明日からヒートでおやすみもらうから、ね?」
「 この前みたいに、家に入れちゃダメだよ?」
駆け足のせいか上がりがちな息の下から六華が言うと、後ろから喜蝶の声が追いかけて来た。
「うるせぇよ、詐欺オメガ。俺がどこに行こうと勝手だろ!」
「人の迷惑考えなよ!」
ぎぎ とお互いに音がしそうなほど睨み合っている二人の間に割って入るのも憚られて……
六華と睨み合っている喜蝶の横顔を盗み見た。
弾く、
弾く、
これでもかと言う程、伸ばされた喜蝶の手を弾いて六華はふんと鼻で笑った。
「彼女持ちは彼女んとこに行きなよ!」
「学校違うんだからどうしようもないだろ!」
昼休みも、六華は喜蝶との間に立ってずっとオレをガードしてくれている。
大型犬と小型犬のケンカを見ている気になるけれど、言い争いが始まってしまうとそんなのんきは言えなくなくて……
「も、もう、もういいって!」
出した大声にびっくりしたのか、二人とも驚いた顔でこちらを見て黙り込んだ。
険しい表情の喜蝶を見ていると、きゅっと胸が詰まるような気がするけれど、それを振り切って六華の手を握る。
「あの オレ、六華と行くから」
「なんで?」
短い問いかけは明快すぎて、逆にオレが尋ねたいくらいだった。
「薫、俺のこと嫌いになった?」
「そう 言うんじゃ、なくて」
茶色い髪の間から覗く目がこちらをじっと見て、そこにオレが映る。
嬉しいのに、
嬉しいから、
「ごめん、購買行かなきゃだから。行こう」
「かおる?」
罪悪感に、ちくりと胸が痛む。
横を一緒に歩いてくれている六華が、窺うようにこちらを見上げるのには気付いていたけれど、歩くことに夢中なフリをして見なかったことにした。
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