OMEGA-TUKATARU

Kokonuca.

文字の大きさ
上 下
76 / 801
花はいっぱい

13

しおりを挟む



「止めとけ、銀花」

 こちらに来ようとした銀花の肩を掴んで止めて、仁が首を振る。
 小さく鼻を鳴らして匂いを気にする素振りをしてから、

「誤解されたら悪いから、俺達は俺達で行こうか」
「だな、悪いな。波風立てたくないんだ」
「六華も誤解されるようなことするなよ!」

 二人の視線はまだ繋いでいたオレと六華の手に注がれていて、でもなんのことだかさっぱりわからない。

「  ?」

 キョトンとするオレを置いて、銀花を引きずるようにして三人はさっさと行ってしまって、口を挟むことのできなかったオレが六華に説明を求めた。

「えと、あいつらは幼馴染みだよ。あとは……喜蝶の匂いでも残ってたんじゃないかな?」
「え  そんな 匂う?」

 清潔感には気をつけているつもりではあるけれど、突然やってきて居座る喜蝶の匂いまで言われてしまうと自信がない。

 袖口を鼻に近づけてみても、やっぱり良くわからなかった。

「さぁ  ごめん、俺はよくわかんなくって」

 匂いに敏感なαならともかく、オレ達じゃイマイチピンとこないのも仕方ないことかな?

 とりあえず遅刻するといけないからと、手を改めて繋ぎ直される。

「急ごっか」

 にこにこと笑う六華に引かれて、学校へと向かった。





 最後の問題を書き終えて、カラリとシャープペンを転がした。

 昨日の喜蝶の新しい恋人の話や、六華に告白されたことを考えていたせいか勉強が捗らなくて、結果が返ってくるのが怖くて仕方ない。

 肝心の喜蝶は元々テストだからって勉強するタイプでもないし、六華は几帳面にコツコツするタイプだから問題はないんだと思う。

「オレ一人、あわあわしてる気がするなぁ 」

 そう自覚すると自分ばかり割りを食っている気がする。

 ぼんやりとしている間に用紙が回収されてホームルームが終わって……いつもなら喜蝶のところに飛んで行くんだけど、先に六華が席までやって来た。

「やっとテスト終わったし、どっか寄ってから帰ろっか?」

 喜蝶が……と言う前に手を引かれた。

「行こ!」

 引っ張られて、駆け足で下駄箱に行って、このままよく行くカフェテラスにでも行くのかと思っていたら、そのまま校門を潜ってしまった。

「え?どこ行くの?」
「ん   えっと、新しく出来たトコ」

 こちらを振り返り、真剣な様子で言うものだから、そんなに行きたかったのかな?と思ったんだけど、校門を少し過ぎたところで振り返ってその理由に気がついた。

 校門の外で、喜蝶を待ってる彼女の姿……

 それを見た途端、ぶわっと目の端に滴が盛り上がって、思わず嗚咽が出てしまった。

「 っ    ごめん、失敗した」

 進んでいた速度が緩んでやがて止まり、六華はションボリと項垂れて振り返る。

「  気付く前にって思ったんだけど」

 走ったせいで上がった息を抑えつつ、オレの涙を拭いて笑う。

「せっかくのテスト明けだよ?なんか楽しいことしよ!」
「  うん」
「ちょっと、気持ちの整理ができるまで、あいつとは少し距離置いてさ。俺がずっと傍にいるから、ね?」

 六華といると、すごく楽しい。

 話が合ったり、好みが似てたり、タイミングが合ったり、そう言ったところが楽で、喜蝶といる時のようなハラハラした感じがなくて落ち着く。

 穏やかでいられて、それはいいこと なんだと思う。

「ん  」

 繋いだままだった手を握り返して、今度は自分から一歩踏み出してみた。

 どんなに執着してみたところで、喜蝶はΩしか相手にしないって言っているんだから、諦めるべき だよね?


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。 そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

隣の親父

むちむちボディ
BL
隣に住んでいる中年親父との出来事です。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

男子寮のベットの軋む音

なる
BL
ある大学に男子寮が存在した。 そこでは、思春期の男達が住んでおり先輩と後輩からなる相部屋制度。 ある一室からは夜な夜なベットの軋む音が聞こえる。 女子禁制の禁断の場所。

真・身体検査

RIKUTO
BL
とある男子高校生の身体検査。 特別に選出されたS君は保健室でどんな検査を受けるのだろうか?

処理中です...