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花はいっぱい
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しおりを挟むちゅっ
頬に吸いつかれた感触に驚いて、喜蝶の手から逃げるタイミングを逃してしまった。
そのまま離れるかと思った唇が再び押しつけられて、柔らかい舌がペロリと頬を舐めた。
びっくりしているのに、舐められて身体中に広がる痺れに腰が抜けた。
「あ 」
ぽすんとベッドに倒れ込んでのしかかられると、体格差のせいでオレじゃ押し返せない。
「き、ちょ ナニ、いきなり、やめて」
ぐっと喜蝶の肩を押し返すも、そんなことで揺らぐほど喜蝶はやわじゃなかった。
すんすん と耳元で鼻が鳴らされ、それだけでゾクゾクと背筋がしなる。
「ああ、本当にヒートなんだな」
「なん なんで嘘言わなきゃいけないの」
喜蝶の牡の匂いだ。
押し倒されて、上から降ってくるこのフェロモンに、くらくらする。
「こうやらないと分からないくらいだけど」
笑いまじりのそれは、癖なのか嘲笑なのか。
煽られて熱くなった体が急に冷えて、でも言い返す言葉を見つけられないオレはのそのそとその下から這い出そうとした。
なのに、大好きな顔が間近に迫って動きを縫い付ける。
「これくらいだったら明日から学校来れるだろ?」
「 もう、届けも出してるから」
少し色の薄い目がガラスのようで、じぃっと見つめるのが好きだった。
光が溶けて、反射して、それに映る自分を見つけると、喜蝶がこちらを見てくれていることがわかって。
「また休み明けに一緒に行こうよ。それまで退屈だろうけど……」
「あいつはこうやって部屋に入れるのに?」
玄関の方でカタンと音がして、六華が帰ってきたのを知らせた。二人でベッドに転んでるだなんて、変な誤解を与えることになるから、とんとんとん と階段を上がってくる音を聞きながら、急いで喜蝶から距離を取ろうとした。
「なんで?あいつに見て貰えばいいだろ?」
「え……何言ってんだよ」
のしかかられて、服の下に手が滑り込んだ。
暑いと言っていたせいか、汗をかいた掌が腹から胸にかけて撫であげてくる。
「ぁ っ」
とっさに上がりそうになった声を、口を押さえてやり過ごすが、足音はもうソコまできていて時間がない。
後ろに転がるようにして喜蝶から距離をとるけれど、大きくて手足が長いせいか、そんなオレをやすやすと追いかけて捕まえてくる。
痛みに呻きながら喜蝶を足で蹴り、手で突っぱねてもびくともしない。
「だ ────っ」
きぃと小さな音がして扉が開いた。
「ほら!これでいいんだろう!」
息を荒げた六華から投げるように渡されたカフェオレを受け取って、喜蝶は涼しい顔をしているけれど、オレは顔があげられなくて……恥ずかしくて……
「薫?どうしたの?」
「なんでもないよ!なんでもない!」
手を振って見せて、ノートを写すフリをして俯いた。
耳がジンジンしてて、赤いのがバレてるかもしれなくて、唇をそっと噛んだ。
こうやって喜蝶は、気が向いた時……主にイライラしたり退屈だったり、後は振られてムシャクシャした時にオレに悪戯する。
気分転換にオレを揶揄うのが目的だから、軽く触ってくるだけだけど、喜蝶に触られるのが嬉しくて……
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