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雪虫
雪虫 落ち穂拾い的な 7
しおりを挟むベッドに腰かけると、もそもそとセキが被っていた布団から顔を出し、背中に寄りかかってきた。
凭れてるだろうに、驚くほど軽い。
頼りない。
これは自分が守ってやらねば と思うのは、瀬能の言うようにフェロモン左右されていると言うことなんだろうか。
ぽす と、背中を叩いたところでくすぐったいだけ殴打も、やはり頼りない。
「 あの人と、えっちしたん ですか?」
「ああ」
憤りを、ゆるく息を吐き出すことで乗り越えようとしているのに、背に置かれた拳が震えて虚勢を教える。
「もう何年も前の話だ」
「 」
それでも、オレが他の人間を抱いたと言う事実は変わらない。
セキはそのどうしようもない部分が嫌なんだろう。
「お前の番は、身綺麗な奴を選べばいい」
ぽすぽすと何度も叩かれて、仕方なく振り向く。
堪えるためか噛み締めた唇が紅くて、それはオレにとって誘惑の赤だとわかっているんだろうか。
「 ひどい」
「むしろこの年で童貞の方がひどいだろうが」
「大神さんの童貞欲しかった です」
「無茶言うな。お前なんて影も形もなかった頃だ」
涙を堪えるために表情はどんどん険しくなっていって、それにつれて唇の紅も艶を増す。
「大神さん」
「なんだ」
「噛んでくださいよ」
俯いて、首に嵌めた首輪をオレへと晒し、鍵の部分を指で掻く。
オレが持ったままの鍵。
鍵を差し込んで、回して、開けて、首輪を取るのは簡単だ。
「噛まん」
微かに俯いただけで、項から漂う香りに目が回りそうだった。
石鹸の香りなのか、
肌の匂いなのか、
蠱惑的なそれは、煙草を吸って鈍った鼻にも安易に届いてしまう。
「 ひどい」
慰めるためではないが、セキの目尻の滴を舐めとってやると、蜜でも舐めたかのような甘さに目眩がした。
甘い 甘い
美味そうな匂い
「ひどくはない。お前のことを思ってだ」
「俺 は、俺のことを思うなら、は 孕ませてよ 」
「馬鹿なことを言うな」
「じゃあなんで優しいの!なんで抱くの! なんで突き放さないんだよ!」
鼻先を髪に埋もれさせて匂いを嗅ぐと、堪らなく幸せな気分になるのは……
知らず癖になった頬を擦り付ける行動は、瀬能達に言わせるとマーキングだそうで、オレの臭いに怯えて普通のαなら傍に近寄れないと言われた。
そうしてしまうのは……
「ひどいよ」
突き放すことも、手放すことも簡単なはずなのに、それをせずに傍に置き続けるのは……
「ひどい」
「そう言う人間だからな」
頬を擦り寄せると、セキの髪がさらさらと音を立てる。
駄々っ子のように首を振って逃げようとする体を押さえつけて、押し倒すように抱きしめてやれば、観念したのか腕の中で小さくなって体を落ち着けた。
ひどく頼りない。
事あるごとにそう思う。
「相変わらず小さいな」
「大神さんが大きいだけです」
セキでそう思うのだから、セキより小さな雪虫を相手にするしずるは、どれ程そう思うのか。
「すごくおっきぃ」
頬を擦り寄せてくるセキの匂いが、一瞬強くなった。
「すごくあつぃ」
背に回してくる手の動きが変わったことに気づかないほど愚鈍じゃない。
しがみつく体を引き剥がすのは気分的に面白くはなかったが、このままセキを暴走させるわけには行かない。
「ゃ 大神さ 」
距離を取られて涙目 ではない、熱で潤み始めているだけだ。
紅潮した頬と、艶を増した赤い唇と……
やけに美味そうな、濃い甘い匂い。
「お、が みさんの、 ぉ◯んちん 触りた 」
せめて音声が拾われてないことを願いながら、煙草を咥えて火をつけた。
慣れても眉間に皺が寄るようなキツい臭いを、ふぅっとセキに吹きつけてやると、恨みがましい目がオレを睨んだ。
いつまで経っても子供っぽいと思わせる頬を膨らませる拗ね方に、苦い笑いが漏れる。
「ホント ひどい 」
「よく考えろ、こんな所でなんかできるか」
そう言ってやると、はっとしたのかちらりとカメラの方に視線をやった。
「 そう言うのは、興奮しません?」
煙を一吐きする毎に、セキの匂いが薄れて行く。それに連れて目の潤みも引いていくが、気分的にはそうではないらしい。
「しずるじゃあるまいし」
「だって 」
「第一、お前の声が筒抜けだぞ?」
オレの部屋でこそ防音をわざわざ効かせてあるが、ここはただの一軒家だ。
最中に興奮してそう言った言葉が駄々漏れのセキが、そこでナニを喋るのか?興味がないこともないが、後々面倒なことになりかねない。
「ぁ っ だ、だって。そんなに、声おっきくない です」
「そうか、じゃあ直江に聞いてみるといい」
「──っ」
「呼んでやろうか?」
意地の悪い顔をしてやると、茹でタコのように真っ赤になって、今度こそ涙目になった。
「いじ 意地悪!」
「そうだな」
肯定してやると、それ以上言えなくなったのかセキは口を引き結んでしまった。
END.
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