OMEGA-TUKATARU

Kokonuca.

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雪虫

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 制服のバリエーションがあるから学校のものと言うわけではなさそうだ。ただ私服だとしても違和感はなく似合っている。

「可愛くない?」

 もじもじっと小首を傾げる姿にも、大神の眉間の皺は取れず、

「   血染め刀の名が泣くぞ」

 なんとかそう呻き声を出した。

「こんなトコで言うことないのにぃ。わんこくんも羞恥プレイが好きだねー」

 それのどこに照れる要素があるのかわからなかったが、水谷は恥じらって「んもー」ともじもじしている。

「好きじゃあないな」
「つれなーい!」

 きゃあきゃあと笑い声を上げて、水谷は大神の腕にぶら下がったりして遊んでいて、二人は昔からの知り合いなんだなと言うことが見て取れる。

「ところで、授業の方はどうだ」
「  まず筋肉が足りない。スタミナも足りない。スピードも足りない」

 頑張ってはいるつもりだったが、それでも水谷から見れば全然なんだろう。

「ついでに頭も足りない」

 そこまで貶されたのなら、もう泣いてもいい気がしてくる。

「バカ正直過ぎる」

 はー……と大神が溜め息を吐くが、吐きたいのはオレの方だ。

「でも、成長としては悪くないよ。僕としてはちょっと楽しみだ」

 ちらりと大きな目がこちらを向いてニッコリ笑う。

「そうか。お前が言うならそうなんだろう」

 貶されて上げられて……この人達は人をなんだと思ってるんだ!

 溜め息を吐いてくるくると小型犬よろしく、大神の周りを走り回ったり飛びついたりする姿を見ると、普通の知人と言うよりも……もっと親しいようにも見える。

「お茶を煎れましたので、休憩されてはいかがですか?」

 直江の言葉に促され、大神が頷いて玄関の方に歩き出した。

「僕ジュースがいいな!」
「ご用意します」

 そんなやり取りを聞きながら……二階を見上げると、カーテンが微かに揺れている。

 明るいこちらからじゃ白い布の向こうは見えなくて、でも雪虫が見てくれていると確信して手を振った。
 本当なら、その屋根をよじ登って窓に駆け寄ってしまいたいけれど……

 
 

 急いで着替えたらしいセキが玄関に走ってやってきた。

「いらっしゃい!」

 ここの所……と言っても、ニ、三日の話だけれど、大神が多忙とかでこちらに来ることがなかった。オレに代わって雪虫の世話をしてくれているセキは、当然この家から出ることはなくて、大神に会えないとボヤいていたから、会えると聞いてはしゃいでいた。

 だから今日来ると聞いて嬉しいんだろうなぁと言うのは思っていたし、めちゃくちゃいい笑顔で出迎えるんだろうなって言うのも予想できた。

 でも大神と水谷の距離がこんなに近いのは想定外で……

 案の定、セキは大神の腕に引っ付いている水谷を見て、オロオロとギクシャクした動きで挙動不審だ。

「こんにちはー!いつも挨拶せずにお庭で失礼してごめんねぇ?」

 ぴょこんと大神の腕から飛び跳ねて、セキに「はじめまして」と挨拶する。

「中こんななんだねぇ?」
「家なんかどこも似たり寄ったりだろう」
「そんなことないよぉ?」

 親戚のうちに来た子供かな?と言う感じで、水谷はきょときょとと辺りを見渡して、直江が勧めるリビングのソファーに腰を下ろした。

「ひっろーい!いいなぁ僕ワンルームだよー」
「お前のサイズならそれで十分だろう?」
「じゃあわんこくんのビッグサイズだと、でっかい一軒家じゃないと収まんないってことなの?」
「何の話になっているんだ」
「ナニってぇ」

 パタパタと足を蹴り上げるから、スカートが舞ってちらちらと太腿が見える。
 オレは目を逸らしてるけど、向いに座っている大神は全然気にしてないようで……

「ナニ、の お話ぃ」

 よく似合う悪戯っ子っぽいニッカリとした笑いを浮かべて、水谷はスカートの裾を摘み上げる。

「今更照れるぅ?僕と君のナカでしょ?」

 ツンツンと頬を突かれても大神が怒らないのは……それだけ水谷の奔放な行いを許しているからで。
 微妙な表情で二人を見ていたセキがぐっと言葉を飲み込んだのが分かった。

 雪虫の件がなければ、傍から離さない程可愛がっている。


 じゃあ、大神と水谷の関係は?


 オレがやきもきすることではないのは分かってはいるが、傍で見ている身としてはハラハラして堪らない。

「仲も何もないだろう」
「ヒドイ!遊びだったんだ!」
「遊びも何もないだろうが」

 とうとう大神は面倒そうにそっぽを向いてしまった。

「からかいすぎたー?」

 直江の出したオレンジジュースを美味そうに飲んで、罪悪感の欠片もない風に笑顔を作る。

「もういい。ところで、広い家がいるなら用立ててやるが?」
「えぇ?要らないよー。ナニ要求されるか分かったもんじゃないし」

 カコン とグラスに残った氷を一つ口に含み、小さく肩を竦めてみせた。

「君には貸しは作っても借りは作らないようにしないとね」
「そうか。気が向いたらいつでも言うといい、歓迎する」
「じゃあまた温泉行こうよー!」

 隣に立ったままのセキの顔を盗み見ると、つーんと唇が突き出ていて、拗ねた時の動きが雪虫と同じ癖だと気がついた。
 いや、同じと言うか、雪虫がセキに影響を受けてああやって拗ねて見せるんだとなんとなく納得した。

「  オレ達もなんか飲もう、向こう行こ」

 久しぶりに会ったらしい二人には積もる話もあるだろうし、傍で拗ねながら二人を見ているセキは気の毒だし、ちょっと離してやった方がいい気がする。

「    うん」
「今日の晩飯のこともあるし」

 「な?」と促すと肩を落として台所の方へとトボトボと歩いて行く、直江さんに身振りだけで向こうに行くと告げてすぐに後を追った。

 台所の椅子にポツンと座って項垂れるセキに何を飲むか尋ねると、いつものお茶をお願いされた。

「よくあの茶が飲めるなぁ」
「飲んでないの?」
「飲んでるよ。進んで飲みたくないだけで」

 茶筒をポンポンと叩く。

 これがフェロモンや匂いを抑えてくれると言うのは重々承知だが、クソマズいのはどうしようもない。

「これでもだいぶ美味しくなったんだよ」
「うぇ……」
「まぁ、飲むのと飲まないのとじゃあやっぱりいろいろ違うから」

 確かに、匂いが全然違う。

 この薬草?ハーブ?合法の 何か?の影響がある間は雪虫以外の匂いらしい匂いは感じ難い。
 よっぽど近いか、外に向けて攻撃的な臭いでない限り、気にならないほどだ。

「これなんなんだろうな」
「何かの花とか、聞いた気がするけど……」

 詳しくは知らないと首を振る。


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