OMEGA-TUKATARU

Kokonuca.

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雪虫

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「そ んな、あんた達が連れてきたんだろ⁉︎」

 勝手に連れてきておいて、今度は手に負えないから引き離される?

 冗談じゃない!

「ふざけんなよ!」

 怒鳴っても怒っても、瀬能の表情に怯えや申し訳なさが浮かぶことはない。

「いきなり選ばれたからって連れてきて、その気になった途端引き離して    じゃあなんで会わせたんだよ!」

 知らなければ何も思わず暮らせていただろうに。
 オレの人生ろくじゃもんじゃないと思いながら、過ごせていたはずなのに!

「  目測を誤った、ってところかな。バース遺伝子が利己的なのは感じてたけど、変化が急過ぎて  こんなの本人の体にもよくないはずなのに  」

 紙に何やらメモを取りながら、ぶつぶつと呟き始めた瀬能はこちらを見ていない。
 何を言っても暖簾に腕押し状態で無駄なようだと、項垂れて足元を見た。

「オレに、できることは?」
「うん?」
「    雪虫にとって、一番いい方法を教えてくれ」

 一番いい方法なんて、わかり切ったことを聞くのは、引導を渡して欲しいからだ。

 夜、怖がらせたままだったな と。
 落ち着いたら傍に行くって約束したのに。

 それが気がかりだったけれど……






 熱を出して寝込んでいる雪虫に会うことは叶わなくて、オレはまた暴走する前に身一つであの家を出ざるを得なかった。
 新しく用意された場所は、小さいけれど一人で住むには十分のアパートで。
 他所の場所に来た時に感じる馴染めない感覚に、戸惑って玄関で立ちすくんだ。

 そんなオレを直江が奥へと押しやる。

「服や足りないものがあれば、それで適当に買い足しておいて」
 
 直江に指差された手首のタグに目をやるけれど、何が必要かと考えることができない。

 少し前まで、確かに雪虫と二人幸せだったはずなのに。

「直江さん   雪虫どうしてる?」

 こんなところじゃなくて、あいつの傍で絵本でも読んでやりたいのに……

「瀬能先生がついてくれてるから。安心して大丈夫かと」
「   じゃあ、あいつの世話は?オレやっぱりもど 」
「大神さんからしばらくは勉学に励むようにとの伝言だよ」
「  ────っ 」

 ふざけるな と、叫んだのが言葉になったかはわからない。

 直江のスーツの胸ぐらに掴みかかって殴り飛ばされ、振り上げた拳をいなされ足を払われ……
 床に頭を押さえつけられて、骨が音を立てて軋んだのが聞こえてやっと、動けないほどしっかりと押さえつけられているのがわかった。

 荒く息を吐くオレと違って、直江は涼しげなままだ。

「  一体、どうしたの?」
「  どうした?なんで怒らねぇと思ってんだよ‼︎あんたらはオレをどうしたいんだ!」

 握られた腕はピクリとも動かない。

 大神と並ぶと細く見えたせいか非力だと勝手に思ってしまっていたが、その力強さは押し返せるものじゃなかった。

「 っそ!離せ!」
「言われて離すならこんな仕事務まらないんだよ。大人しくしてて欲しいんで、ちょっと左腕の一本でも逝っとくかい?」

 上から見下ろす薄ら笑いと、急に込められた力に反射的に体が固まる。

 逃げなくてはと思うのに、全身に震えがきて力が入らない。

「あ、   っ」
「大神さんは私の比じゃないくらい怖いよ」

 口調は和らいだのに、冷え冷えとした目と腕の力はそのままで。

「だから、報告させないでね」

 眇められた目に、虚勢の反抗をすることもできたんだろうけど、小さく頷いて返した。

 腕の力が抜かれて押さえる力がなくなると、どっと汗が吹き出してくる。なんとも言えないじっとりとした嫌な汗は、拭っても拭ってもべったりと貼り付いてくるような嫌な感じだった。

「   ど いて 」

 腕は離れたが、マウントを取られたままと言うのは居心地が悪くてかなわない。
 その下から這い出そうと頑張ってみるも、体重をかけられているとも思えないのに抜け出すことができず、ジタバタと手足を動かした。

 ふー と溜め息が吐かれる。

「大神さんも瀬能先生も、君たちを悪いようにしようとしてるわけじゃない」
「     」
「まぁ信じられないだろうけど、ちょっと頭冷やしてみたら?」

 オレの動きが止まったのを確認して、直江はオレの上から降りた。
 枷は無くなったのに、動くことが出来なくて……

 直江が出て行く音を聞いても、ぼんやりと天井を見続けた。


 何度も、疑問に思ったことだ。

 大神達がオレと雪虫にこんなに手をかける、理由。

 オレと雪虫のバース性は珍しいが、ここまでするほどじゃない。それこそ、今居るつかたる市はバース性の人間が大勢いる。

 雪虫のようにアルビノのΩになると珍しいだろうが、それがこれだけ手をかける理由になるんだろうか?
 雪虫の体の弱さを見ていると、大神がソレ目的で囲っている……と言うのも違うだろう。だったらわざわざ、運命の相手であるオレを連れてくる意味がわからない。

 『オメガってね、いろんな使い途があるんだって』

 ふと思い出したセキの言葉に、『使い途』を考えてみた。

 Ωは、繁殖のための性と揶揄される性別で、バース性の中では一番数が少なく、かつ発情期のせいで誰でも誘う可能性があることから差別を受けやすい性だ。

 発情すればフェロモンを出してαを呼び寄せる。

「繁殖の  」

 Ωを使った資金源と考えるなら、性関係だ。

 αとΩを番わせて、子供を産ませる?両親がαとΩだった場合、子供はどちらかの性になる。

 いや、それなら一対一の理由がつかない。複数で生活させて、発情期の誘発を使えば乱交だって起こる。その方が率がいい。

 αとΩのAVでも撮るのかと言えば、そうでもない。
 それならさっさと誘発剤を使ってしまえばいいことだし、童貞を連れてきておままごとのような物を撮るはずもない。

 発情期のフェロモンを香水の原料に……なんて、話題が以前に出ていたけれど、それだとフェロモンの少ない雪虫だと意味がない。

「   オメガじゃなくて、オレ?」

 精子が高値で売れることは身を持ってわかっている。片親がαで、あれば子供がαである確率が高くなる……と、本で読んだが、でもそれは初っ端に否定された。
 要は、αでもできのいいαとそうじゃないαがいる。

 一般人に溶け込んでしまうようなオレと、どうやっても人目を引いてしまう大神のようなαと。

「   と、おっさんはベータって言ってたっけ」

 オレに言わせると、αとβとΩの匂いの差は歴然で、大神がβと言い張っている意味がわからなかったりするのだけれど。



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