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雪虫
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しおりを挟む「もうちょっと転がってようよ」
「 また今度な」
雪虫のフェロモンがほとんど出ないってのは、性的に成長できてないってことなんだろう。健全なお年頃の男子の寝起きに何が起きるのかってことを、わかってないらしい。
ここの所そんな暇がなかったせいか、治まりが悪くて……
ソファーに座り直して前屈みになってみるも、ちょっとコレはきついかもしれない。
「 えっと。夕飯の準備しないとだな」
「ええー」
不満そうな声を上げて頬を膨らませ、小さい頭を膝につけられてしまうと動けなくて、少しでも楽な体勢を探してモゾモゾと尻を動かした。
「食べなくてもいいよ」
「いやいや、よくないって」
人間の基本的な欲求も少ないのか、雪虫は進んで食事しようと言うことはなくて、むしろちょっと嫌がる素振りすらある。
「だって 」
だって?
言葉の続きを待ったけれど、やはりその先は出てこなくて。覗き込んだ顔が膨れっ面になっていた。
「ほら、エプロン取りに行ってくるから」
もっと駄々をこねるかと思っていたが、あっさりと離れて床に置きっぱなしになっていた絵本の方へと行ってしまう。
ちょっと振り向いて、何か言いたげにしてから、つーんと唇を尖らせた。
「早く行って来なよ」
「 ぅ」
とりあえずの急務は治めることが優先とは分かりつつも……
「ごめんって」
「ご飯の方が大事なんでしょ」
どこの面倒臭いカノジョだと苦笑するも、それでも治まらないモノは治まらない。申し訳ないとは思いつつも、自室として使っている部屋へと入って座り込んだ。
背中の冷たいドアが少し熱を取ってくれやしないかと期待したが、一度立ち上がった熱は引くことを知らないようで……
シャツをたくし上げて、邪魔だから口に咥える。
ベルトを外して、パンツの前を寛げて、空気に触れさせた瞬間ほっとした。
「 っ」
何かオカズを とも思うも、探す物も余裕もない。
愚息に手を当てて根本をそっと緩く擦る。痺れるような気持ち良さを堪えるために、気がついたら眉間に皺が寄っていた。
裏筋、くびれ、先端は刺激が強すぎて、少し触るのを躊躇う。
どうせならもう少し気持ちいいことを感じていたくて、追い詰める動きをやめてゆるゆるとした手つきでゆったりと握り込んだ。
「 しずる?」
ひっと声を上げそうになったと同時に、先端から先走りが零れた。
竿を伝う滴の感触を、息を詰めて逃す。
「しずる?」
耳元 じゃない。
薄い扉を挟んで真後ろに雪虫がいるんだと、声の近さで分かった。
上擦らないように慎重に声を出す。
「 どした?」
「んー?戻ってこないから、どうしたのかなって」
直ぐ後ろにいる。
ちょっと辿々しい感じの声が耳をくすぐって、ゾクゾクとした震えに負けないように、握り込んだ手に力を込めた。
「 っ なんでもない。すぐイくよ」
ぶるりと震えて、刺激の強い先端を指先で弄る。
窪みに指の腹を沿わせてやると、にちゃにちゃと粘っこい音と共にぬるつきがます。
「そ か。じゃあ、下で待ってる」
耳元に、雪虫の声。
「 待 っちょっと、何か……喋っててくれないかな?」
「なに?」
少し冷たいトーンに落とされた声に、ビクビクと体が震える。
「どうしたの?」
「何も」
「様子、へん 大神呼ぶ?」
ごつい男の名前を出されて、一瞬頭が冴えかけた。
自分自身を励ますために、腕を上下に動かして緩く首を振る。
「大丈夫」
「そか あのね」
まったく色を含まない声を聞きながら自慰に耽っていることが背徳的で、吐いた息の熱さにごくりと喉が鳴る。
「前も、突然家からいなくなった時があったでしょ?」
「うん? か、いものとか?」
「買い物は言ってから行くし、すぐに戻ってくるでしょ?」
掌の熱で撫で上げるのが堪らなく気持ちいい。
「せの?先生が来た時」
「 あー……、うん」
発情期に入るのだとばかり思っていた雪虫の傍にいたらまずいと、外に飛び出した時のことだ。確かにあの時怒っていたはず……
「何も言わずにいなくなっちゃって、一人になって しずるに会いたかった」
ビクっと手の中で跳ねた先から透明な液体が溢れ出す。
なんとなく柔らかかった尻の感触を思い出して、呻き声が上がりそうになった。
「しずるがいないの、 やだった」
多分、表情は頬を膨らまして拗ねた風なんだろう。
「 しずる?」
可愛い と呟いた瞬間、まずいと思った。
少し鼻にかかるような、舌足らずなような、そんな甘えた声が扉の向こうで名前を呼ぶ。
名前を呼ばれるのが、心地良く感じる。
身体中に鳥肌が立って、先を押さえた掌の中にどっと温かい感触が溢れる。
「 っ」
指の間から垂れる白いソレは……
「大丈夫? 調子、良くない?」
真剣に訪ねてくる純真さに、一気に冷静になり、掌を見下ろして、とりあえずコレの証拠隠滅することにした。
「しずる?」
どきっと心臓が跳ねるのは、やましさのせいだと思いたい。
「すぐ出る! すぐ出るから下行ってろ!」
ドンっと扉を叩くと、躊躇った雰囲気と小さな足音が響いて、微かな気配が遠のいて行った。
エプロンをつけるオレを台所の入り口から覗き込む雪虫は、ちょっと気まずそうにもじもじとこちらを見ない。
「 入ってこいよ」
チラッと青い視線が向いて、赤くした顔を伏せて首を傾げる。
先程のこともあって気恥ずかしいけれど、そこでチラチラと見られてるのも落ち着かない。
「どうした?」
先程の雪虫と同じことを尋ねているのだと思うとちょっとおかしくて、
「なんか しずる、へん」
変⁉︎
「え、地味にショックなんだけど」
赤い顔のまま、やはりこちらを向かない。
「 なぁ、調子悪いんじゃ 」
「ちが なんか、いい匂いがしてて」
いい匂い?
目の前の夕飯の材料の事かと、ちょっと食べ物に興味が出てきたかと期待しそうになったが、違う。
そろそろとこちらに近寄って、手を握ってくる。
「 すごく、なんだろ、 」
すん と鼻を鳴らす仕草に覚えがある、フェロモンの匂いを嗅ぎ取ろうとする時の自分の行動とそっくりだ。
取られた手に頬を擦り寄せられて……綺麗に洗ったはずなのに と、どっと汗が吹き出した。
「あ。冬の匂いだ」
鼻先を掌に埋められて、深く息を吸われるとくすぐったくて。
「 ふ ゆ?」
「うん きもちいい匂い」
腕の中に収まる雪虫の体温は温かくて、シャツとエプロン越しなのに妙に生々しい。
さっきまでナニに使われていたのか知らないまま、雪虫が頬を擦り寄せる手が、ぞわぞわする。
「あ、えと 」
「なんか、ね 胸、きゅってなる」
熱い息が唇の間から漏れて……
「しずる 」
「 うん?」
「 なんか、すき」
うっとり揺れる睫毛覗き込もうとして、その瞳の潤みに気がついた。
「……雪虫?」
「 」
熱い
これは、熱が出てるんじゃないか!
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