OMEGA-TUKATARU

Kokonuca.

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雪虫

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 滑る廊下を駆け出して、大神に怒られるんじゃないかと言うことも思い出せないくらい、足が急かされて気が急いて……

 初めて来た場所でどうして  ?


 そこがどこのドアなんて関係ない。

 開いたドアに鍵がかかってたら蹴破っていたかもしれない。



 白い


 白の



 こちらを見て驚きに大きく見開かれた両眼は青かった。


「あんた、誰だ?」


 オレの言葉に驚いたのか、さらに大きくなった両眼が綺麗に周りを映してオレ自身が見えた。
 よくよく考えれば、いきなり飛び込んできたよそ者のオレに誰?と問いかけられて、好意的に返してくれるはずがないのはわかり切っていたことで……






「 この人、誰ですか?」

 今にもムッスリと音が聞こえそうな程頬を膨らませたこいつは、『雪虫』と名乗った。

 薄い銀にも見える金の髪と、青い虹彩、肌は人形のように白い。

 昔見た本の中に球体関節人形ってのがあって、あれが人間になったらこんな感じかなって思うくらい、オレと同じ人だとは思えなかった。

「見るの、やめてくれませんか?」

 パチリと瞬く睫毛は真っ白で……つい目が行く。
 初対面の人間にじろじろ見られて機嫌が悪いのは一目瞭然だったが、どうしても目が離れない。

 その視線に耐えかねたのか、雪虫はセキの後ろに隠れてしまった。大きくはないセキの背後に隠れることができるほど、雪虫は小さい。

「雪虫」

 セキは平気だけれど、大神は怖いらしい。
 名前を呼ばれて飛び上がるその気持ちはよくわかる。

「新しいお前の世話係だ」

 なんだと?

「え  セキは?」

 背中に縋る雪虫にセキは気まずい顔をしている。
 オレと雪虫を見て、申し訳なさそうに項垂れた。

「あの  俺、世話できなくなる時があるから」
「どうして?」

 う  と言葉に詰まるが、雪虫はキョトンとした顔でセキを覗き込み、返事を聞くまで離れない雰囲気だ。

「いや、あの   」
「そいつ明日からヒートなんだよ、他人の世話なんかできねぇって」

 仕方なく理由を言ってやると、かぁっとセキの顔が一瞬で真っ赤になって視線が大神に移った。
 ひやりとした気配に、オレはそちらを見れないままやってしまったと俯いた。感じるのは大神の不機嫌な雰囲気で、睨まれているのがよくわかる。

「君、オメガのヒートのタイミングがわかるのかい?」
「ん?  うん。多分」

 オレの周りにいたのはΩ因子持ちのβばかりだったから、確実ではないかもしれないが、確信はある。
 βにも発情期のある奴がいて……すごく独特な匂いがするからよくわかる。

 熟れきった果実の、触れれば枝から落ちるような甘ったるくて濃い匂い。

 それがΩ因子から来るんなら、この匂いは発情期前の匂いに違いない。抑制剤を飲んでるからか控えめだとは思うけれど、それでも匂うのが発情期だ。

「え  なんか問題?」
「いや、周期が安定しない子はヒート時期が分からないから苦労することがあって……」
「んなもん、匂いが全然違うだろ?」

 オレが匂うくらいだから、大神はもっとよくわかっているはずだ。

「そこまで嗅ぎ分けられるのはお前くらいだ」

 しかめっ面を隠そうともしない大神は苦々しくそう言うけれど、オレにはそれが普通だからよくわからない。
 他の人間よりはちょっと鼻は良い方だとは思っていたけれど。

「匂ってるのに釣られないってトコも興味深いなぁ」
「だって、今匂うのはヒートの前段階の匂いだし」

 オレの言葉に目を輝かして食いつこうとした先生を、大神が押し除けた。

「それは追々にしてもらえますか。セキ、引き継ぎを済ませろ。ここを出る時に一緒に帰るぞ」

 セキとしけ込むつもりなんだろうなぁと言うのは、言ったらまた窒息コースなんだろう。
 先生は渋々雪虫の方に向き直り、ソファーのあるリビングの方に促した。

「じゃあ僕は雪虫の健診ね。こっちおいで」

 胡散臭いと思っていたけれど、あの先生は本当に医者だったりするんだろうか?胡乱な顔で雪虫と先生を見てたオレを、セキが台所の方へと引っ張った。

 ちゃっかり大神も付いてくる辺り……もうすぐ発情期のセキとオレを二人きりにしたくないんだろう、マジで独占欲強いなぁ。

「えっと  話はどこまで?」
「なんも」
「何も?」

 セキが大きな目をパチパチと瞬いて、大神を睨んだ。

「黙って連れてきたんですか?」
「お前が説明するだろう?」

 そう言って咥えようとした煙草を間髪置かずにセキが毟り取る。
 この男相手にこんなことをできるのは、それだけ二人が親密だからに違いない。

「ここは禁煙です!あと、直江さんだっているでしょう?」

 直江の名前は知っている。

 オレが数日間、監禁……じゃなくて泊めてもらってた時に少し話した奴で、たぶんα因子持ちのβ。
 ノリもいいし強面じゃないしで、いてくれて助かった奴だ。

「君にはここで雪虫の世話をしてもらうことになったんだ」
「は?」
「掃除、洗濯、食事、とか。あと健康管理も」

 指折りながら内容を言うセキの言葉を遮るために、その手をグィッと押さえつけた。

「ちょ、ちょっと待て。無理だって  だってあいつ、オメガだろ?」

 常識で考えてあり得ない!

 まだ発情期があってもセキが面倒を見る方がいい!

「なん 何考えてんだよ!バッカじゃねぇの!」
「初見でオメガだと言ったのはお前くらいだ」

 大神はそう言うと、セキがこちらを見ている間に咥えたらしい煙草に火をつけた。

「ちょ  もー!」

 吐き出すきつい臭いだけれど、これが臭ってくると他の一切の匂いが消えて……

「セキ。早く済ませろ」
「も  もぅっ‼︎勝手過ぎます!」

 さすがに吸い始めた煙草は取れなかったのか、セキは大神を睨みつつこちらへと向き直った。

「雪虫は、大神さんが保護してるオメガです、体が弱いので注意が必要で 世話をする人間がつくことになっています」
「いや、だから何考えてるんだって聞いただろ?ヒート起こした時に襲っちゃっていいのかよ」

 純粋なΩの発情期に立ち会ったことはないけれど、昔経験したΩ因子持ちのβの発情期より酷いものだとしたら、逆らえる気がしない。
 薬が間に合うとも限らないし、一緒の空間にはいることはできない。



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