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赤ずきんの檻
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しおりを挟む「なんの、こと か 」
また、ぼんやりし始めた頭を振り、あかは言い返そうとした。
「オメ オメガとか、 わひゃ わ、 」
オメガと、聞いた記憶があかにはあったけれど、それが身近に関係するとは夢にも思わなかった。
存在数自体が僅かで、ましてやΩやαはバース性の為の特区に住むことが多く、見かけることがまずないからだ。
一番身近な話で、ニュースで聞くくらいしか馴染みがない。
問いかけられても、あかは答えを持っていなかった。
「それは、ヒートだろう?」
「ひぃ……?」
「発情期だ」
またふぅっと煙を吹き付けられると体中の力が抜け、冷たい床に倒れ込むこととなった。
腹の奥がきゅぅっと絞られるような感触に戸惑い、けれどその熱に翻弄されて身を捩る。
「 な、ん、 ここ、へん 」
無意識に臍の下を掻く。
「 へん 」
自然と潤む目で男を見上げたあかは、なぜかその男が助けてくれるんじゃないだろうかと、そのスーツパンツの裾を掴んだ。
「へん ここの、奥 」
熱さに脳を灼かれながら、自分を跨ぐ革靴に額を擦り付けた。
床同様、傷一つないそれは滑らかで綺麗だったが、顔を擦り付けることができるなんてどうかしていると、あかは頭の隅で思っていた。けれどそれ以上に、目の前の男にこちらを見て欲しかった。
この男の視界の中にいるだけで酷く安心したような気分になるのが不思議で、もっとこちらに視線が欲しくて手を伸ばした。
「ほし 」
何が とはわからなかった。
腹の奥のむずむずするような感覚と、体を巡る熱のお陰で思考は溶けて名残もない。
「 ねぇ なん、か ちょ ら、い 」
汗がこめかみを伝う感覚に震え、男に懇願することを止められなかった。
何かが、欲しい。
ナニ ?
「ィイ にぉい 」
ソコに溜まっていると本能が告げ、それに逆らう力はあかには残されてはいない。
力が入らない腕を動かし、自分を跨ぎ立つ男の足に縋り付く。きつい煙草の臭いの中に感じるのは、不快と感じたあの牡の臭いだった。
「にぉい、 す 」
言葉が布に包まれて消えた。
眉間に硬いベルトのバックルが当たり、痛みを訴えたがそんなことはどうでもよかった。
上に立つ男の、ソレが欲しいと、
「 ふ、 ふ、っ」
餌を貰えた犬のように、鼻が鳴る。
「そうだな 借金は俺の下で働いて返すか?」
厳つい手が頭上に来た時、逃げなければいけないと言う思いが過ぎったのに、その掌に頬が包み込まれて酷く安堵した。
手の少しざらりとした感触に擦り寄ると、悪寒とも鳥肌とも違う肌の粟立ちに襲われて、あかは見えない何かに促されるように頷く。
あれほど注意して聞くようにしていたそう言う男達の言葉だったのに、抗い難い何かに押さえつけられたかのようにあかは素直だった。
「おじさ の、したぁ?」
何をすれば良い?の言葉が出ず、中途半端に間延びした馬鹿馬鹿しい言葉が垂れる。
けれど男はそれが愉快らしく、二本目の煙草を吸おうと取り出して手を止めた。人差し指と中指のそれをじぃと見詰めて、以前のような思案顔を見せた。
「おじさんの、しら、で、 ぁにする ?」
舌足らずに懸命の喋りに、男は唇を歪めた。
「大神だ」
「だぁれ?」と問いかけ直しながら、その男自身の名前なのかもしれないと、ぼんやりとあかは思った。
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