とある画家と少年の譚

Kokonuca.

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「ちが……」

 否定しようとして言葉が詰まった。
 自分の態度が翠也に誤解を与えてしまったのは十分承知していた。

 けれど……俺には真実を告げる勇気はなくて。

 兄と言う立場で自分を弄んだ俺を、翠也がどのような目で見るかを考えただけで、身が竦んで呼吸すらままならない。
 かつて畜生だと言った行為であっても、俺はそれでも翠也のことを愛していたし、翠也に好まれ続けたかった。

 そんな、薄汚い部分を突かれたような気がして言葉が出ない。

「発作は? 発作を治めなくてはいけないのでしょう?」

 思いつめた声音で着物に手を伸ばそうとする翠也をとっさに押し留める。
  
「で……では僕に、愛でさせてもらえますか?」

 それが翠也にどう受け止められるかなんて考える余裕はなかった。
 ただただ、翠也にこれ以上汚れて欲しくなくて……

「あき……っ君がそんなことをする必要はない!」
「させて、くださいっ! 口淫も覚えます、それからもっと、もっと……」
「必要ないと言っているんだ!」
「声っ……声も、出すように……」
 
 小さな子供の泣き顔のように表情が歪む。

「だから、僕を……それとも、僕では慰み者にすらなれませんか?」
「何を馬鹿なことを」

 嘆願に、白い喉がひくりと跳ねるのが見えた。

 翠也はなぜここまで直向きに俺を求めてくれるのだろうか?
 狭い彼の世界を最初に切り開いたのが俺と言うだけで、こうまで直向きに見てもらえるものなのだろうか?

 ただ真っ直ぐに、自ら俺の手の内に堕ちてこようとする姿に……

 どうしてだか全身が震えた。

 清廉で、
 純粋で、

 真白な雪を思わせるような俗物に塗れていない彼を、これ以上堕としてしまうのだと言うことが恐ろしくて。
 身の許す限り弟を犯したいと希う俺が、ただひたすら俺を見詰める翠也に共に堕ちるかと尋ねることは、卑怯以外の何ものでもないだろう。

 これから先も、翠也以上に愛しいと思える相手が現れるとは思えない俺が畜生に堕ちるのは構わない。
 けれど、俺が引きずり下ろさなければ何も知ることのなかっただろう純真さを……

 汚すことはできない。
 
 
「──── 申し訳ないが、遠慮させてもらいたい」


 自分で出したとは思えないほどの冷たい声に、背筋に悪寒が走った。

「うた……ろ……さ  ?」
「もう少し穏便にことを進めるつもりだったんだが、知られてしまってはね」

 白磁の頬に伝う涙を掬い、口に含むと甘い甘い目が眩むような甘露の旨さを感じて、ぐっと小さく喉が鳴る。

「るりに操を立ててしまったんだ」
「なにをおっしゃっている……のか……」
「るりと恋仲になったんだ。君には申し訳ないと思うのだけれど、こう言うのは頭で考えるものではないからね」


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