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鳥の子
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しおりを挟む「ふん」
もう一度笑いが鼻から漏れる。
酷く嫌な気分になったが、この男が後援者と言う以上逆らうことはできない。
「きちんと挨拶もせず、申し訳ありません。お陰で 」
下げた頭の上で、また人を馬鹿にしたような笑いが聞こえる。
親子だと言うのに翠也の雰囲気からかけ離れたその態度に戸惑いを隠しきれないまま、感謝の言葉が口の中で消えていく。
「ふぅん。お前は蝶や男ではなく女を描いた方がいいようだな、くだらん男を描く暇があるのなら一枚でも多く女を描け」
「…………」
正直、反吐が出そうだった。
後援者とは言え、初めて会った日に繰り返しお前お前と呼ばれるのも、ましてや玄上のために描いたものを否定されるのも不愉快極まりなかった。
後援者や翠也の父親でなければ、唾を吐いて追い出したい気分だ。
「まぁしかし、下女に産ませたにしては立派になったもんだ」
その言葉が耳に入ったが、一瞬で理解することはできなくて……
さっと指先の血の気が引いたのを考えると、頭よりも先に体が反応したようだった。
「こう並べると、お前らはよく似た絵を描くものだな」
やっとそこで、止まっていた脈が動き出したかのような錯覚に陥った。
必死に動く心臓に圧されて、汗が噴き出る。
「端女でも爵位持ちでも畑に差はないと言うことか? 藪北、やはり種が大事らしいぞ」
あまりの言葉に藪北は顔をしかめそうになったようだったが、慌てて取り繕ってはいと頷く。
……端女とは、俺の母のことか?
種とは……こいつのことなのか?
ざっと血の気の引く音を聞いた。
笑う森田に肩を叩かれてよろける。
「お前、俺の種に感謝しろよ?」
は? とも、え? とも声が出ない。
「なんだ、返事もまともにできないのか」
「いえ、……ただ、驚いてしまって」
母から手籠めた相手の話を聞いたことがなかった。
唯一の話は、名前をつけたと言うくらいのもので……
「あの女はそんなことも言わなかったのか? やはり端女は頭が足りんのか 」
母を貶める言葉も、ただ耳を通り抜けた。
先程からこの男が言っている言葉のすべてを、細胞の一つ一つが拒否をする。
なぜなら、それを認めてしまえば……
「ならば、翠也もお前が兄と知らんのか」
はっきりと突きつけられた言葉に、眩暈がした。
どう言うことだ?
何を言っている?
そんな言葉ばかりが頭の中で繰り返される。
「 こ、こんな不肖な奴が兄と名乗っては、翠也くんが迷惑しますよ」
「はっ、間抜け面だが分だけは弁えるのか? まぁ言う価値もないからな」
また人を馬鹿にしたように笑い、森田は藪北に顎をしゃくって歩き出した。
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