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鳥の子
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しおりを挟むこれで翠也の安心した顔を見ることができるだろうかと、視界の端に意識を向ける。
少女を案内する姿にぎりりと奥歯が鳴り、俺のものだと言えない歯がゆさに地団駄を踏みたい気分で拳を握った。
わずかでも翠也に触れたらと思うと、それだけでいらいらとした感情で睨みつけてしまう。
それと同時に、るりに触れた俺を翠也がどう言った思いで見ていたのかを思い項垂れた。
けれどそれにも終止符が打てる。
これからは翠也に与えてしまった傷を癒すことを第一に、先のことをゆっくりと考えていけばいい。
画家として落ち着いたならば、二人でどこかに工房を構えてもいいだろう。
翠也がどうしても妻を娶らなくてはならないと言うのならば、俺が男妾に甘んずればいいだけの話だ。
生涯、傍らにいることが叶うならば立場なんてものはどうだっていいのだと、すとんと腑に落ちた。
かつてあれほど目の敵にした妾と言う言葉も、彼の傍なら心地もよかろうと。
早くあの少女から引き離して翠也は俺のものだと……いや、俺が翠也のものなのだと告げたい。
翠也は、今更と笑うだろうか?
それとも、嬉しそうにはにかむだろうか?
「────おい」
それは、横柄な一言。
そうやって人を呼ぶのに慣れた人間のそれだった。
「は?」
思考を引きずり戻されながら振り返った先に、頭髪に白髪が混じり始める頃合いの男が立っていた。
一目で仕立ての違いの分かる三つ揃えの背広を身につけた男は、鷲か鷹かを彷彿とさせる目で俺をじろりと見る。
「は、はい?」
雰囲気が、玄上を悼む他の客とまったく違っていた。
「これは、お前の絵か?」
考えられる限り思い出すも、この男と会ったことはない。
悪い意味でこのような人物に会って、忘れることなんて起こり得ないだろう。
「お前の絵かと聞いている。疾く答えろ」
初対面の相手に脅すような声音で言われて、胸中で舌打ちしながら返事をした。
「ええ、そうです。私が描きました」
精一杯の笑顔で答えたつもりだが、どこまで誤魔化せたか……
男が「ふん」と鼻で笑ったことに腹が立った時、後ろに控えるもう一人に気がついた。
こちらは記憶があって、俺に南川氏からの援助の話を持ってきた人物で、確か名前は……
「藪北さん?」
「新山さん、お久しぶりです」
そう頭を下げる藪北に問う視線を投げる。
顔の丸い、人の良さそうな藪北はぺこぺこと頭を下げながら俺と男の間に申し訳なさそうに歩み出た。
「こちらは森田鳥蔵氏、君の後援を申し出て下さった方だよ」
「え? だ……」
「南川のお屋敷に預かってもらうから便宜上、南川氏としていたんだよ」
俺の顔色で察したのか、尋ねる前に答えが返った。
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