とある画家と少年の譚

Kokonuca.

文字の大きさ
上 下
164 / 192
金木犀

1

しおりを挟む



 当初こそるりに対して遠巻きにしていた南川の家人達だったが日が経つにつれて慣れ、ぎこちなかったるり自身も彼らに懐き始めた。

 俺に戯れるるりを微笑まし気に見遣り、

「まるで恋仲のような睦まじさですねぇ」

 と、ころころと笑う。

 そんな言葉が翠也の耳に入らないか冷や冷やしながらも、るりがこの家に受け入れられているのが嬉しかった。

「ちぃ坊ちゃんは大人しい子だったからなぁ。あれくらいやんちゃが丁度いいや」

 蒔田から借りた脚立の上に立ち、柿を取ろうと奮闘するるりを田口が微笑ましそうに眺める。
 年齢的にも性格的にも、田口が一番毛嫌いするのではと言う懸念は取り越し苦労のようで、好々爺然とした笑顔に胸を撫で下ろした。

「翠也くんは、こう言ったことは?」
「あんまりねぇ。部屋に籠って小難しそうな本を読まれたり、絵を描かれたりばかりでねぇ、先生ぇが来てずいぶん明るくなりなさった」

 そう言うとるりが抱えてきた柿を受け取り、

「夕餉前だが向いてやろうな。飯を残すんじゃねぇぞ」
「うんっ! ありがとう!」

 るりの大きな返事に笑い返して、田口は調理場のある方へと歩いて行った。

「あいつの話?」
「翠也くん、だろ?」
「…………」
 
 そう何度目かになる窘めもるりはあえて聞いていないようだ。

「年も近いんだし、翠也くんとはいい友達になれると思うんだが? 俺と玄上みたいな……」
「むり」

 取り付く島もない言い方には苦笑すら漏れない。
 儚い硝子細工のような外見で、しかしその頑固さは感服に値した。

「自分の世界を広げるのは、楽しいぞ?」
「…………ねぇ、卯太朗は退屈じゃないの?」

 まったく関係のない返事をされて「は?」と声が漏れる。

「あんなの、人形相手と変わらないよ」

 言葉を理解する前に、とっさにるりの襟首を掴み上げていた。

 はっと腕の先の体が強張って……

「おま  っ」

 言葉が紡げず、喉の奥が引き攣って声が張りつく。

 一瞬で脳を焼いた怒りは、情事を盗み見られていたことよりも、俺に組み敷かれている翠也を見られたことに対してのものだった。

 あの姿を、他の人間が見たという事実だけで腸が煮えくり返りそうだ。

「あ  」

 苦し気に喘ぐるりを引き寄せる。

「うた……っ」
「  っ」

 すべてを見通す玻璃の目に見つめられて、怒鳴ることもできずに押し黙った。

「ぉ、おれのほうが上手だよ? 卯太朗だってきっと満足するよ?」

 矜持があるとばかりにまっすぐに俺を見据える。

 確かに、翠也はるりのように口淫もしなければ誘う手管に長けているわけではない、けれど翠也を前にそんな些事などどうでもいい話だった。
 

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

処理中です...