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埋火の欠片
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しおりを挟む「ぃ、あっ」
ぶるりと震えた背中に、緋色の金糸雀を刻みつけると、翠也は上がりそうになる声を堪えながら突っ伏してしまった。
白い肌に羽を休める鳥の出来に満足しながら黒髪を撫でる。
「緋色が似合う」
「っ……もう! 僕の体に描くなんて……」
「はは、悪かったよ。洗えばいいんだから機嫌を悪くしないでおくれ」
急いで拭こうとすると翠也は大慌てで首を振り、掠れた蝶を庇うように身を竦めた。
「消さないで」
「でも……じゃあ風呂で流しに行こうか?」
「僕、もうお風呂には行きません!」
そう言い切られて面食らう。
「どうして?」
「卯太朗さんの作品を湯に流すなんて、できません」
その真剣な様子に思わず笑いが漏れる。
落書きにもならないようなものに価値を見出してくれるくすぐったさが幸せで……
「ありがとう、また描くよ。俺は一生こうやって君の傍らで絵を描き続けるから」
「 一生?」
「ずっとだ」
例え、この先に翠也が妻を迎えなくてはならなくなったとしても。
俺と翠也の元に、奥野と言う画商が訪れたのはそれから程なくしてのことだった。
以前に一度挨拶を交わしたことはあったが、わざわざ訪ねてくるほどの面識がない相手に、翠也と顔を見合わせて首を傾げるしかない。
「田城氏の……まぁ、遺言のようなものでしょうか?」
そう言って説明を受けた内容は、玄上が開くはずだった個展を遺作展とし、その花を添える形で友人の画家数名に作品を出して欲しいと言うことだった。
「俺はともかく……翠也くんにもですか?」
「えぇ、いただいた書簡にそう明記されていましたので。ただ……」
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ひっそりと描き続けたのだから、その絵の評価を奥野が不安に思うのも確かだった。
「彼の絵に関しては私が保証します」
俺の評価などなんの意味もなかろうが と胸中で思ったが、奥野はその言葉に頷いてくれた。
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邪推しては失礼かとも思ったが、それよりも前につらと言葉が出てしまう。
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