とある画家と少年の譚

Kokonuca.

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葬儀

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 形の良い目に見据えられて、噴き出た汗を拭うこともできなかった。

 明らかに無礼なことを言った俺を峯子はどう思うのか……考えると胃どころか心臓に穴が開きそうな気分だ。

「翠也」
「……はい」
「人は、やりたいことだけをやって生きていけるわけではありません」
「…………」
「新山さん」

 名を呼ばれて肩が震えた。

「人にはそれぞれ、産まれもって背負わなくてはならない義務があります」

 事情はあれど、峯子が翠也にこの家を継いで盛り立てて欲しいと言うのが悲願なのは十分にわかる。

「け……けれどっ! 産まれ持つ才能を使うことは、義務ではないのですかっ⁉」
「屁理屈を」
「翠也君の才能はるりのそれに劣ってはいません! むしろ独学でよくここまでと感心するほどです。るりを援助すると言うならば、同じように田城に認められた翠也くんにも描かせてやってくださいっ!」

 頭を床につけた俺に慌てた翠也がしがみつく。

「お願いしますっ!」
「卯太朗さんっ! 止めてください!」
「お願いしますっ!」

 俺の体を引っ張る翠也の腕を払い、上がった頭を再び床につけた。

「お願いします!」
「……新山さんは、なぜそこまでなさるの?」

 峯子の声は純粋な問いかけだった。
 
 理由なんて、一つしかない。

 玄上が悔しいと言ったのと同じ理由なのだから。
 単純に、ただただ飾る言葉も必要なく、翠也の絵を見続けたいだけだ。

 才能に惹かれるのは、それはもう絵を描く人間の魂に刻まれた呪いだ。

 羨み、そしてどうしようもなく惹かれてしまう。

「志半ばで逝かなくてはならなかった田城の思いを少しでも繋いでやりたいと言うのもありますが、私自身が翠也くんの才能に惚れ込んでいるのです」

 顔を上げた俺に、泣きそうな翠也の顔が目に入った。

 その顔に笑いかける。

「……三人も画家を支援することが難しいとおっしゃるなら、私が出ます。ですので……」
「もういいです」

 鋭利な刃物を思わせる言葉に身が縮む。

「わかりました」
「は?」
「画家のお二人がそうおっしゃってくださるのならば、翠也には少なからず画家としての才能があるのでしょう」

 峯子の意外な言葉に、ぱちりと瞬いた目を合わせた。

「今まで通り絵を描くことは構いません。けれど家でただ描くだけと言うのは許しません。何らかの結果を出しなさい」
「は、い  」

 その声は心細げで、どうなるかわからない将来の話に不安を感じているのが見て取れる。

「そして、描けるからと義務がなくなったわけではありません、翠也には妻を迎えてもらいます」

 はっきりと告げられた言葉は硬く、強固で、他の意見を受け入れる気は一切ないと暗に告げる声音だった。
 

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