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葬儀
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しおりを挟む「 そう」
飄々とした返事が頭上でした。
「主人の勧めとは言え、貴男を受け入れたのは私です。黒田の家から感謝されたこともありますし、るりさんを援助するのはやぶさかではありません」
「あ、ありが 」
「ただ、非常に申し上げにくいのだけれど、家の者はるりさんのような方に慣れてはおりません」
そこに含まれる差別の意味合いにぐっと唇を噛む。
それは見た目のことを言っているのか、それとも滲み出てしまう立ち居振る舞いのことを言っているのか……
けれど、それでもけんもほろろに断らなかった度量に感謝するしかない。
「何かあった場合、私は家の者を庇います。それでもよろしいですか?」
「……はい」
「それから、口を挟んだのですから翠也にも条件を付けます」
「え?」
波風らしい波風が立たぬ内に終わろうとした瞬間に言葉を振られ、隣の翠也が小さく跳ねた。
「な、何を……?」
整えられた白魚のような細い指先が考え込むように頬を撫でる。
「──── 貴男の工房を片付けて、るりさんに譲りなさい」
ひやりと冷たいとも思える硬い声に、とっさに俺と翠也は身を乗り出した。
「そんな!」
「奥様っそれはっ」
「以前から言っていたでしょう? 絵を辞めて南川を盛り立てるよう励みなさいと」
繰り返された小言を思い出したのか、翠也はさっと顔を曇らせる。
「そ……れは……」
「貴男が母屋の自室に帰ってくれば、そこをるりさんが使うことができるでしょう。先があるのであれば、こちらで世話をすることもあり得ますからね」
翠也の膝の上に置かれた拳が震え、複雑な色味を含んだ黒い目がるりを見た。
「僕だって! 絵をっ」
「いつまでも遊んでいていいと思っているの?」
塗りが美しい机をばしんと叩く音に、翠也ではなくるりが飛び上がる。
「あ……遊んでなんていませんっ」
「貴男はっ 」
親子の間で次第に強くなりだした語調に、
「奥様っ」
思わずそう切り出していた。
「翠也くんの絵は、田城にも認められています」
翠也を睨んでいた目がこちらを向く。
正面から据えるように睨みつけられれば、女の視線などと言う呑気な思いが一切通じないことを思い知る。
「だから?」
「私は、田城が翠也くんを世に出したがっていたのを知っています」
「……」
「翠也くんは、立派に画家として身を立てることができます。それは奥様の目指す身の立て方とは違いますが、るり同様に埋もれさせるには残念過ぎます! その才能をないがしろにするのは先を見る目があるとは思えませんっ」
差し出がましい口を利いてしまったと口を押えたところで、出た言葉が引っ込むわけでもない。
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