とある画家と少年の譚

Kokonuca.

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葬儀

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 気が重いが逃げるわけにはいかない。

「僕も同席しますね」
「え?」

 弱々しく笑い俯く姿はいつもより小さく見える。

「彼を置けないと卯太朗さんが困るんですよね? 何かお力になれるかもしれません」
「翠也……」

 名を呼んで顔をこちらに向かせると、その拍子にぽろりと涙が落ちた。

「  っ、嘘です! 気になるからっ卯太朗さんに関わることが……僕の知らないところで進むのがいやなんですっ! でもっそれでもっ……これはっ  」

 続く拒絶の言葉を、全霊で飲み込む気配がした。

「すまない」

 翠也の言葉が俺を信用しきれないために出たものなのか、それともそれだけ俺を思ってくれているから出た言葉なのか……
 どちらにせよ、翠也を不安にさせていると言う罪悪感を胸に刻みながら、抱き締めた手に力を込めた。





 幾らよく躾けられているとはいえ、屋敷の者達もさすがにるりを見てそのまま通り過ぎることはできなかったようだ。
 円くなった志げの目と口に苦笑して、峯子のいる部屋に入った。

 峯子は秋の色目で整えた着物を着て、夏に座っていた籐の椅子の代わりに座布団に腰を下ろしている。

「失礼いたします」

 さすがに峯子は大した驚きも見せず、いつものとろりとした笑顔のまま俺達に座るように促してきた。

「新山さん、黒田の方からお礼を言われましたよ、良い絵を描いて貰えたと大層喜んでいました」
「  恐縮です」
「多恵さんも早産だったそうですが、出産を終えられたそうよ」

 喉元を絞められたような感覚に思わず首元を擦る。

「……はい、おめでたいことです」

 頭を下げながら、どこかで俺の子が産まれたのかとぼんやりと思う。

 男の子なのだろうか? それとも女の子なのだろうか?
 多恵に似ているのか、それとも俺に似ているのか?

 健やかなのだろうか……?

「  それで? お話とは?」

 突然現実に引き戻されて言葉が詰まる。
 幾度も切り出し方を考えていたのに言葉が出ないでいると、翠也がすっと前に出た。

「お母様」

 そう言うとるりに視線を向け、

「こちらはるりさん。昨日お知らせした画家の田城様のお弟子さんです」
「えぇ、田城様のこと、御愁傷様でした。お力落としされませんようにね」

 穏やかに微笑み、先を促すように俺を見た。
 翠也とよく似た、どこか遠くを見ているような目に見つめられて居住まいを正す。

「単刀直入に申しますと、このるりを暫くこちらに置いてやってはいただけないでしょうか?」
「るりさんを?」
「田城が見込んだだけあり、この子の才能は素晴らしい。田城が亡くなったからと言ってこのまま埋もれさせたくないのです。然るべき師を見つけてやれるまで……傍に置くことをお許しお願いたいのです」

 平身低頭の俺を見たるりが慌ててそれに倣って頭を下げる。


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