145 / 192
葬儀
7
しおりを挟む時季はもう秋と言ってもおかしくない頃で、画材類のみが置いてあるがらんとしたここは思った以上に温もりらしいものを感じない。
足元が板なこともあるのか、余計に冷えて感じる。
「まぁ、しかたないことだな」
るりの身の振りが決まるまでの我慢だし、明日になれば布団を揃えることもできるだろう。
せめてもの足しにと埃避けにかける布を尻の下に敷き、赤い写生帳を手に取る。
「ふぅ……」
壁に凭れて窓を見ると、心細げな三日月が微かな光を放つ。
これからのことをどうしてくれようかと考えながら使い込まれた赤い表紙を指先でなぞった。
ざりざりとした粗い感触は、どこか玄上の豪快さを思い起こさせるようで……
「いい写生帳だ」
ふ と笑いを零しながら、俺に宛てられた手紙を広げた。
いくら読んでも文面は変わるはずはないし、玄上が戻ってくるわけではないのに、繰り返し下手くそな字をなぞる。
またいつでも会えると思って、つっけんどんな態度のまま別れてしまった。
あれが、今生の別れになるなんて思ってもみなかった……
「お前は、あれが俺達の別れだって知っていたのか?」
最後に見た玄上の顔を思い出しながら、るりのことを頼むと書かれた手紙を見る。
あれだけ緻密な絵を描くと言うのに、地図はあり得ないくらい簡潔で……
運が良ければ辿り着けただろう。
これは、るりを残して逝かなくてならなかった玄上の悪足掻きなのだと思う。
玄上は俺と同じようにるりの才能を閉じ込めて、独り占めしたかったのかもしれない。
けれど独り残して逝くのも気がかりで、運を天に任せるようにこんな地図を残したのだろう。
「……るりを日の当たる場所にと思う俺は、間違っているか?」
るりのことは、捨て置こうと思えばそうできた。
そうできなかったのはるりに対する負い目と、玄上のこの手紙、そして蒐集欲をくすぐるような特異な外見のせいだ。
日に透ければ今宵の月のような光を見せる髪と、西洋人形そのままの硝子の双眸。
まるで、大理石で作くられたかのような……
閉じ込めて、自分だけのものにしたかった玄上の気持ちも良くわかる。
「玄上、厄介なものを遺してくれたな」
うつら と忍び寄る睡魔に負けて閉じた瞼の裏に、豪快に笑う玄上の姿が思い浮かんだ。
腕の中にぽっと温もりが灯る。
皮膚から染み入る寒さが骨にまで達し、痛みを訴えようとしていたのが和らいだ。
「……ん」
「起こしてしまいましたか?」
眠さで開けられないために視界ではわからなかったが、鼻腔をくすぐる香の匂いに安堵する。
「 翠也?」
「こうしていれば、少しは温かいでしょう?」
かけられた布団と翠也の温もりに窮地を救われた心地で縋った。
0
お気に入りに追加
18
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる