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葬儀
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しおりを挟む南川の屋敷に着いた時、るりは怯えて首を振った。
るり自身もここが自分のような立場の人間が入り込んでいい場所ではないと、一瞬にして悟ったようだった。
俺自身も、厄介になっている立場でるりを連れてきていいとは思わない。
けれど、玄上が亡くなったのを知ったるりを、あそこに独り置いておくのはどうにも耐えがたかった。
玄上から頼むと言われたこともあったが、何よりもるりから玄上に会う機会を奪ってしまった贖罪のために、身なりを整えて玄上の葬儀に出させてやりたかった。
るりが落ち着くのを待っていたために、辺りはすでに暗い甕の底に沈んだように静まり返っている。
「お、おれ、やっぱり……」
「玄上に別れの挨拶をしたいんだろ?」
「…………」
逡巡を滲ませながらも頷いたるりの背を押し、門を開けて貰って中に入った。
「随分遅いお帰りですねぇ。何かあ 」
欠伸を噛み殺しながらの橋田の言葉が、るりを見て止まってしまう。
何かを尋ねそうな雰囲気にわざと気づかないようにして、礼を言って離れへと足早に向かった。
「おれ、卯太朗にめいわくかけるんじゃないのか?」
いつも一線引いて物事を見ていたるりの顔が、心底困っているように見えた。
「大丈夫。るりを暫く置いていただけるように奥様にお願いするから」
「だめだって言われたら?」
縋る眼を見ていると、幼い頃に拾いたくても拾えなかった猫を思い出す。
「……その時考えるよ」
そう返すものの、峯子からは良い返事は貰えないだろう。
幾ら風呂に入れて身なりを取り繕ったとしても、るりの立ち居振る舞いはそう言う職業のものだ。
屋敷に招いて歓迎されるとは思えなかった。
「おれっやっぱり戻るよ、お別れ言えないのはさびしいけど……」
細い手だと言うのに、意志の強さからなのか引いても体は動かない。
「以前に訪ねた時、俺がるりの言葉に耳を傾けていれば生きている玄上に会えたはずだ。俺がるりの話を聞かず、その機会を駄目にしてしまった」
「うぅん……卯太朗にはしゃべるなって言われてたから。行けなくてよかったんだと思う」
力なく肩を落とするりは、唯一の拠り所を亡くして酷く弱々しく見える。
「それでも、俺に償わせてくれ」
「…………でも」
促すように肩を抱いて歩き出すと、るりもそろりと歩き出す。
「……やっぱり! おれ帰るっ仕事もあるしっあんまり家を空けておくとよくないから」
俺の腕を振り払って、るりは身を竦ませながら後ずさった。
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