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宍の襲
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しおりを挟むけれど、返事の前にさっと翠也の顔が赤らんだ。
「す……好いているとか、好いていないではなくて……」
「うん?」
泣きそうになりながら、翠也は言葉を見つけられないでいるようだった。
怯えるように繰り返し訴えた苦しさが、俺の思う苦しさであって欲しいと息を詰めて返事を待つ。
翠也の言う苦しみが俺の思うものであったならば、その辛さは俺自身が良くわかっている。
欲しくて欲しくて、繰り返し抱いても交わることのない境界線が憎くて堪らず……
溶け合って、
混ざり合って、
そのままで居られない、苦しさ。
誰か他の人を見るのではないかと言う、苦しさ。
愛しくて、愛しくて、……苦しい。
これと同じ思いが、彼を苦しめている原因なのだとしたら……?
だとしたら、それは酷く苦しいものだろう。
「……慕っても、慕っても…………貴男に届かないのが、苦しい」
一際強い力で抱き締められ、縋る力の強さに胸が詰まった。
「俺に、届いてないと思う?」
「はい……僕は貴男のものになりたいのに、でも卯太朗さんは違うから……っだからっ苦しくて、辛くて……」
翠也は再び「苦しい」と呻くように言ってほとほとと涙を流す。
「幾ら貴男を想っても、卯太朗さんは俺を見てくれないでしょう?」
「そんなことはないっ!」
被せるように否定するも翠也の言葉は止まらなかった。
「僕の後ろ盾や、母の面影ばかりっ」
「なん っどうしてそこで奥様まで出てくるんだ!?」
降って湧いた人物に、思わぬほど声が低くなったのか、翠也は怯えるように肩をすくめる。
とっさのこととは言え、怖がらせてしまったことを悔やみながら宥めるように言葉を続けた。
「俺は君に後ろ盾を求めたわけではないよ、それだけは信じて欲しい」
まるで雛鳥のひたむきさでこちらを見詰める翠也の瞳には、俺しか映ってはいない。
それがただただ嬉しくて、黒く美しい髪に触れる。
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「最初から、君だけが欲しい」
はっきりと目を見て告げ、やつれてしまった体を抱き締める。
「でもっ……」
俺の力に押し出されるように漏れた弱々しい声は、やはり怯えを含んでいた。
「僕は……母の代わりなんでしょう?」
「だから、どうしてそんなことを?」
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