とある画家と少年の譚

Kokonuca.

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宍の襲

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「口先の……嘘ばかり要りません」

 堪えるためか、翠也の唇は噛み締められて赤みを増して艶やかだ。

「嘘?」
「僕じゃなくてもいいのでしょう?」

 何を と問いかける前に、限界を迎えたように翠也の体は床へと崩れた。

「  お願いです。これ以上、僕を苦しめないでください」

 覆った顔の隙間から、苦悩に震える声が床を這うように溢れる。

「どうして苦しい?」
「…………」

 翠也は答える代わりに首を横に振った。

 拒絶を、覆すことはもうできないのだろうか?
 翠也の心は疾うに俺から離れてしまい、欠片も残っていないのか?

 もう一片も触れることすら許されないのか?

 そんな事実を覆したくて、伏す翠也を抱き締める。
 
「君が欲しい」

 痴人のように繰り返す。

「  僕は、そうじゃない」

 拒絶を呟きながらも、翠也は腕の中から逃げなかった。

「どこが気に入らないか教えてくれないか? 君に好かれるためならなんだってしてみせるから」

 俺の言葉に弾かれるように顔を上げ、けれど言葉を発する前に萎れるように俯いて首を振る。

「卯太朗さんに、できることなんて何もありませんっ」
「それは……」

 もう、一分の隙も無いと言うことだろうか?

 血の気が引いたせいで冷たい指先を握り込んだ。
 腕の中の温もりに縋るのに、胸の内から体はどんどんと冷えていくようで……

「翠也」
「  っ」
「本当に? 俺にできることは何もないのか?」

 声に反応するように小さなしゃくりが上がり、引き裂くようなか細い泣き声が上がる。

「貴男はっ……貴男は、僕が幾ら欲しがっても、貴男は僕だけを欲しがってくれないでしょう?」

 嗚咽を堪えるかのように噛み締められた唇は、まるで血のような赤色だ。

 悲痛な声を上げて泣く翠也の姿は胸を刺すほど壮絶だと言うのに、どうしてだかじんわりと先程の言葉が胸を温める。

「……俺を、欲しがってくれるのか?」
「  っ」

 俺だけを映す、濡れた黒い瞳に吸い込まれるようにして唇を重ね合わせた。 
 柔らかな天鵞絨の唇は、拒むことなく俺を受け入れ誘うように緩やかに綻ぶ。

 くちゅ と小さな水音が耳を打つ。
 すっかり俺の癖を飲み込んだ舌の動きが、合わせるように蠢いては深く貪ろうとする。

「  ぁ」

 縋りつく腕は微かに押し返そうとするもそれだけだ。

「翠也、俺は君を苦しめている?」
「  はぃ」

 涙と共に出された肯定にぐっと言葉が詰まった。

 それでも腕の中から逃げ出さない翠也の態度が答えだと、そろりと口を開く。

「それは、君が……俺のことを好いていてくれているからだろう?」

 自惚れと一笑に伏されるのかと息を詰める。


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