とある画家と少年の譚

Kokonuca.

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真新しい画布

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「ま……」

 言葉を募らせようとした俺にもう一度深く頭を下げ、置いて工房へと駆け込んでしまう。
 ぴしゃりと閉じられた襖が、翠也の全身全霊の拒絶をこれ以上もなく表して、それ以上の踏み込みを許さなかった。

 彼の出した精液を指に絡める。

 とろりと濃いそれは指先に絡み、快感の深さを教えてくるのに……

 快楽に突き動かされて出されたそれは、確かに俺の愛撫に因って生じたものだ。

 ────なぜ、彼は拒絶する?

 暗い自問自答に思わずため息が出る。

 翠也は、俺が打算で彼を抱いたと思っていた。
 俺は、気持ちが良かったから抱かれたのだと思った。

 でも俺は計略があって関係を迫ったのではなく、彼が欲しくて抱いた。

 それが事実なのに、どうしてこうなってしまったのか……
 




 次の日から、翠也が俺の工房に来ることはなくなった。
 昼間、隙間なく閉じられた戸が開けられることはなく……

 ただただ自分の工房で黙々と筆を動かすだけの生活で、翠也の部屋の方から微かな音と微かな啜り泣きを廊下から盗み聞くことだけが俺にできるすべてだった。

「  翠也」

 小さく呼びかけてみても返事が返ることはなく。

 俺は項垂れて部屋に戻り、明かりを落とした暗い部屋の中で碧と皓を見詰めた。

 翠也の才能の一端を初めて見た瞬間の思いをまだ鮮明に覚えている。
 自分にないものを求めるのと同じように、彼が欲しくなった。

 るりに告げた好きだとか、
 多恵に告げた愛しているとも違う、

 ただ、彼が欲しくて堪らなかった。

 ただ……それだけだったのに…………





 黒田からの依頼の絵の中で一番大きなものが完成し、後は華やかになりそうなものを幾つか下描き中だった。

「では、向こうも待ちわびているようですし、先にこれだけでも橋田に運ばせましょうか」

 出来を確認してもらうと、繰り返し頷いた峯子がその絵を運ぶ段取りをするようにと橋田に言いつける。

「私も行くことができたらいいのだけれど……」

 所用があって と酷く残念そうに俺達を見送った。

「はぁ……こりゃまた大きいですねぇ、風が吹かなきゃいいが……」
「すみませんね」
「いや、それはいいんですが……風と言やぁ近頃は、めっきり過ごしやすくなりましたねぇ」

 そう言いつつも、絵を抱えた橋田の額からは汗が噴き出している。

「しかしまぁ、これからはどんどん人肌の恋しい時季になりますねぇ」
「ああ」
 
 答えて、冬になれば肌を寄せ合って過ごせばいいと翠也と話した日が遠い昔に思えて息を飲んだ。

 ほんの少し前まで、そうやって話していたのに……そう思うと、息苦しさを覚えるようだった。

「そう言やぁ、近頃はこれのところに行かれてないんですか?」

 橋田はそう好色そうに笑う。

 これ。

 とっさに翠也の顔が浮かんだが、言えるはずもない。 

 
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