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真新しい画布
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しおりを挟む「…………」
花だ、
拙い、
けれどこれは……
はっと玄上を振り返ると、視線の意味をわかっているのか奥歯を噛み締めるような素振りをした。
「……知ってたのか?」
いや、知っていたに違いない。
玄上はるりに絵を描くなと言っていたのだから。
だから、さっきのものの言い方だったんだ。
「おい!」
「…………」
珍しく口ごもった玄上は、ちょいと顎を外に向けてしゃくる。
「朝飯食いに行くか」
「玄上っ」
咎めるように言うも、玄上はるりの頭を鷲掴むよう撫でてから出て行ってしまった。
「あっおい!」
慌てて金を取り出そうとしたら、るりは首を振ってみせる。
「この間貰ったから」
「いや、足りないだろう?」
「……また、来てくれるでしょ?」
はにかんで笑い、るりは手を振った。
朝から店を開けている場末の食堂は騒がしい。
すっかり静かな食事に慣れてしまっていたせいか、落ち着かない気分でその片隅に陣取って団子汁を啜った。
「……お前、知ってたんだな」
小さな野菜屑の浮く汁を飲み干しても、苦い顔をした玄上はこちらを見ないままだった。
るりの描いたあの花は……
然るべき師につかせるべきだ。
「どうして男娼なんかさせているんだ?」
努めて責める口調にならないように問いかける。
るりのあれは、きっと……翠也のそれと一緒だ。
玄上は行儀悪く箸を転がしながら、やはりこちらを見もしない。
「玄上っ」
「じゃあ聞くが……」
隈のせいか、印象のきつい目が俺を見据える。
「お前はどうなんだ?」
「 」
そう返されて胸がきゅうっと音を立てた。
弾劾される居心地の悪さに箸を置く俺は、きっと玄上と同じ顔をしているんだろう。
────俺は……
翠也の才能を独り占めしたかった。
玄上が言い出したことを遮り、彼が世に出るのを止めた。
出展しないのを是とした。
俺に、玄上を責める資格がないのは明白だった。
「俺もお前も、良くも悪くも才能のある奴が好きだからな」
「だからと言って、あんな職業に身を窶れさせることはないだろう?」
「あいつが今できる仕事なんて知れてるだろうが」
開き直ったのか、ふん と鼻で笑われる。
「いや、しかしあのままでは……」
「なら、お前が援助をしてやればいい」
るりを拾い、あのような職業につかせ、その体を抱いていると言うのに随分な物言いだと腹が立った。
「お前はっ……お前の方が名も通るし人脈もある。適任だろう……?」
怒鳴りつけてやろうと思った言葉は、けれど弱々しい問いかけになる。
それを笑いもせずに、玄上は真面目な顔で答えた。
「卯太朗もじき名が通る」
「何を……」
昔聞いた戯言のような励ましを、再び聞くなんて思わなかった。
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