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紅裙
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しおりを挟む「 っ」
しゃくり始めた翠也の肩を叩いてやると、わずかの隙間も厭うように押しつけられていた唇が離れて、途切れ途切れに謝罪する。
「謝るようなことじゃないよ」
「すみ、す……すみま ……っ」
涙を零す翠也の髪を撫で、落ち着かせるために背中をゆっくりと擦った。
最初はむずがるようにしていたけれど、時折とんとんと軽く叩きながら擦り続けると、荒立っていた気持ちが落ち着いたのかくたりと身を任せるように寄り掛かってくる。
まるで赤ん坊でもあやすように、その体を抱き締めて緩やかに撫でていると、ややしてからもぞりと体が動いた。
「…………呆れましたか?」
未だ涙を止めきれない翠也の顔には怯えの表情が浮かび、俺を見ようとするのを避けるように視線は下げられたままだ。
「あぁ」
「っ! ……そう、ですか……」
火でも飲み込んだように腕の中の体が跳ね、ぽたぽたと雫が布を打つ音が増す。
「自分に、呆れたよ」
「な、なぜっ!?」
動こうとした翠也を抱き締め直し、
「こんなに翠也を不安にさせてしまった。……痛かったろう?」
唇をちょいっと突いてやると、いつもより腫れぼったい気がした。
「痛く……ないです」
「はは、強情」
「違いますっ!」
さらりとした黒髪に指を差し入れ、緩やかにくすぐる。
細く柔らかいのに、しなやかで美しい黒だ。
「……彼女と会ったよ。でも、なんだろうね? ……まったく知らない人だった」
翠也が恐れるような、もっと強く湧き上がるような何かが残っているのではないかと、俺自身思っていたのだけれど……
「でも、幸せになって欲しいと思ったよ」
愛しかった。
愛していた。
なのに今日感じたのはただただ穏やかな思いだけだった。
寂寥の混じるそれにつける名前は知らないけれど、彼女の手を取って再び暮らしたいとは思わない。
「翠也。疑わないでくれ」
涙で湿ったままの頬を撫でて、冷たい目尻を舐める。
「君がいない人生は考えてないんだから」
啜った涙の甘さに胸が詰まった。
こんな暴挙を行おうとする翠也の情熱が苦しかった。
「俺の傍に居ておくれ」
一方的な俺の願いだと言うにも関わらず、その言葉にはっと顔を上げて翠也はぶつけて赤くなってしまった唇を引き結び、こくりと頷く。
震えたような返事は是だったが、男女のように確固たる形のない関係において、口約束の持つ意味はどれほどのものなのだろうかと、わずかな不安が小さく心に引っ掛かりを残した。
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