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紅裙
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しおりを挟むわざわざ義妹を呼んでまで、一介の画家を紹介するなんて思いもよらなかった。
ましてや、多恵は身重と聞いたのに……
突然の訪問なのだから顔なんて合わせることはないと高を括っていた自分の浅慮に、頭を殴られた気分だった。
「身重のお体に障りがあってもいけませんし、わざわざ義妹御様を呼ばれることも……」
「そんなことないわ」
「いえ、用心に越したことは……。まだ暑い最中ですので……」
しどろもどろとなんとかして呼ぶのを止めさせようとあれこれ言ってみるも、智英子はにこにことした表情を崩さない。
「弟夫婦のために端に離れを建てましたの。この距離くらいなら散歩にもなりませんからお気になさらず、すぐに参りますので」
上品な笑みに、何か含むものがないかと見てしまうのは、過去に多恵とのことがあるからか……?
翠也は同じ敷地に多恵がいると知っていたのか?
だから、あんな頑なな態度で拒否したのか?
「すぐこちらに来るそうよ」
ぐっしょりに濡れた手を握り締めながら、なんとか退場する口実はないか、どうして離れなんかを建てたんだ……などどうにも落ち着きないことばかりを考えていた。
曖昧に峯子と智英子の会話に相槌を打つものの、内容はさっぱり覚えてはいない。
「それはいいわねぇ!」
「でしょう?」
「新山さんは? どう思われまして?」
突然振られた言葉に、何もわからないまま唯々諾々と頷く。
「 ────はい……よいのではと……」
手どころか、足の裏にまで汗をかきながらただ斬首を待つ死刑囚の気分で固まっていると、さよが廊下から声をかけた。
「奥様」
「あらあら、堅苦しい! ほら、入って貰って」
俯いたままの俺の視界に、す と白い足袋の爪先が入る。
一刹那止まり、それはするりと動き出した。
「多恵さん、急にごめんなさいね。峯子があの鴛鴦の画家さんを連れてきたものだから、会わせてあげなくちゃと思って」
「はい、お義姉さん。嬉しいです」
耳を打つ、張りのある声。
「貴女、毎日眺めているのよね」
「えぇ! だって、あの鴛鴦は生き生きとしていて、絵の中から飛び出しそうなんですもの」
義姉である智英子に合わせるかのようにはしゃいだ声。
……けれど、無理に張った声だった。
「今日はこれを描いてくださったそうよ。可愛らしいわねぇ」
「あら 仔犬、愛らしいですね」
きゃあきゃあと、なるほど。
女三人寄れば姦しいとはよく言ったもので、会話はもう俺の相槌なんて必要がないほどに盛り上がっている。
けれど、俺は絵を見た時の多恵の言葉の間に気づいていた。
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