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紅裙
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しおりを挟む「見せてくれないか?」
「や……そんな、人に見せるような腕前ではないので」
翠也が拒否してくるのは目に見えていたので、押し通すために耳朶に息がかかる位置でそっと囁く。
「翠也の、すべてを見たいんだ」
内緒話をしているように見せかけてちゅっと軽く耳の傍で音を立ててやると、翠也の腕の中からまた写生帳が滑り落ちる。
卑怯です……と呻く言葉と共に睨みつけてくる翠也は悔しそうだったが、足は自室の方へと向かっていた。
緑に包まれた霍公鳥に、ほぅと息が漏れる。
「もう……もうっいいでしょう⁉」
視界を遮ろうとする翠也の腕を取り、もう一度邪魔が入らない内にじっくりと視線を遣った。
その筆運びは、玄上に影響を受けたものと分かる筆跡だ。
けれど、模倣ではない。
彼なりに咀嚼し、理解し、再構築されたものが詰まっている。
「と、鳥は苦手なんです!」
……苦手。
そう言いつつこれだけ描けるのだから謙遜と受け取るべきなのか、それとも翠也のことだから本気と受け取ればいいのか……
「よく出来ているよ」
「卯太朗さんに言われると、からかわれているような気がします」
こちらを見る霍公鳥と睨み合ってみる。
「……俺はからかわないよ」
呟きながら、やはり才能の差とやらを痛感してしまう。
俺が霍公鳥を描いたとして、ここまで描き切ることができるだろうか?
自虐だと思いながら問いかける。
「これをどこかに、出す気はないのかい?」
年若く、これほど才能に溢れるならば、うまく人脈を見つけることができれば画家として十分やって行けるだろう。
しかしそれは翠也の世界を広げることであり、より素晴らしい相手を見つけて俺の元から飛び立ってしまう可能性を産む。
君には画家は無理だと言って、ここに閉じ込めてしまいたい思いと、逆にこの才能を持つ翠也を誇りたいと言う思いがある。
この才能を閉じ込める罪は重い。
だからと言って、注目を集めるようになるであろう翠也の隣で平然としていられるほど、絵を描くことに対して思いがない訳ではない。
情人である翠也が画家として成功した時、引け目を感じるのは嫌だった。
なけなしの尊厳と、ちっぽけな虚勢。
それらに嬲られながら、翠也に置いて行かれたくない と、切に思う。
けれど彼には飛び立つには十分な羽があって、それをむしり取る行為を行う勇気は出なかった。
俺に出来るのは、捨てないでくれと願いながら翠也の顔色を窺うだけだ。
「出しませんよ」
はっきりと出された言葉に、いじましい思考が霧散する。
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