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紅裙
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しおりを挟む「卯太朗さん?」
翠也の声に、胸がひやりとした。
「 ああ、びっくりした。翠也くんか」
「すみません、伺いも立てないまま開けてしまって」
声は普段通りだったが、翠也はなんの声掛けもしないまま戸を開くような無作法をするような子ではない。
そのことが氷が背中を撫でたような悪寒を感じさせる。
「おかえりなさい」
「ただいま」
返しながら、るりの汗のついた体を誤魔化したくて急いで湯船に飛び込んだ。
「あっつ……」
「大丈夫ですか!?」
思わず漏れた声に翠也がこちらに駆けこんでくる。
湯気で煙る視界の中、翠也を正視できずに顔を洗う動作に紛れさせて顔を逸らした。
「大丈夫だよ」
「そう……よかった」
無事を報せたと言うのに、彼は立ち尽くしたままで……
「どうしたんだい?」
何か言いたそうな雰囲気にそう水を向ける。
「いえ……今日一日会えなかったので 」
続けられる言葉はなく、翠也は俯いてしまった。
家に帰り、居ると思った俺がいないことに少なからずがっかりしてくれたのだろう。
るりとの情交のあともその体を眺めていたくてずるずると居座ったために、日はとっくに暮れてしまっている。
言葉の通り丸一日会えていなかったんだと思うと、じり……と申し訳なさがこみ上げる。
俺がもう少し早く帰ることができていたら、翠也を寂しがらせることはなかっただろうし、他のことで頭をいっぱいにしていなければ翠也が無作法をしてまでも風呂場に入って来た理由にも気づけたはずだ。
申し訳ない気持ちで拳を作っている翠也の手を取る。
「翠也も入っておいで」
そう告げると伏せられた顔がはっと上がり、湯気のせいではない赤みでさっと染まっていく。
「いえっそんなつもりじゃ……ごゆっくりされませんと……」
首を振るが、やはり翠也は去り難いようだ。
湯船から立ち上がった俺の裸体に怯む翠也の手を引くと、抵抗するような素振りも見せずにふらりと腕の中へ収まった。
これが初めてと言うわけでもないのに触れる肌に恥ずかしがり、弱々しく首を振る姿が苦しいほどに胸を締めつける。
るりとは違う恥じらう動きにくすぐったいものを感じて、つい顔が自然と笑ってしまう。
「本当にそう思う?」
「……い、意地悪を……しないでください。お疲れかと我慢しているんですから」
どきっとその言い方に胸が鳴る。
浮気に勘づいた女ならば嫌味なのだろうが、翠也の場合は……?
「疲れてなんかないよ。一緒に入ろう?」
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