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紅裙
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しおりを挟むるりは一瞬、年相応な表情で照れてから誤魔化すように突っ伏してしまった。
なぜ、そんなことを言ってしまったのか……
ただわかったのは、この寄る辺ないるりがことんと胸の中に居場所を作ったことだけだった。
横になっているるりを見ている内に悪戯心のようなものが芽生えて、のそりと起き出して荷物の中から写生帳を引っ張り出す。
「なぁに?」
気怠げで、ともすれば眠ってしまいそうになるるりを描いてみたくなった。
返事もせずにしゃりしゃりと音をさせ始めると、きょとんとしたるりが体を起こそうとする。
「あ、動かないで」
「……何してるの?」
不承不承、また横たわるとるりはいつもの美しい目で俺を見詰めてきた。
それを、そのまま写し取りたくて懸命に腕を動かしていく。
「ふぅん……」
ずいぶんと不思議そうな顔をしてこちらを見ていたから、どんな反応をするかと胸を躍らせていたのだが、るりの反応は思ったよりも淡白なものだった。
写生帳の中の自分に興味を示さないるりの姿が、思ったような態度でなかったことにふぅと肩を落とす。
「ああ、そうか、玄上に描いてもらっているのか」
それならば納得もできると言うもので……
玄上に描かれ慣れている人間が今更俺の絵で満足なんてするはずがない。
「? うぅん。おにいちゃんは人は描かないって」
「あ? あいつまだそんなこと言っていたのか」
以前、描きたい相手にこっぴどく振られただか何だか知らないが、そう言った依頼も来るだろうに……
仕事の選り好みをできるとは、贅沢な話だ。
「ねぇねぇ! おれにも描かせて? 最近はおにいちゃんが描かせてくれなくて」
小さな子供がするようにするりと膝に乗り上げる形でねだられて、そこで初めてこの写生帳をあの屋敷に置いておけないことに気づいた。
翠也は人のものを勝手に漁るような性格ではなかったが、何かの拍子に目にしてしまうかもしれない。
裸体で横たわる姿を見て彼がどう思うのか、どれほどの衝撃を受けるのかは想像するのは容易かった。
「それなら、これと……これを。あげるから好きに使うといい」
写生帳と鉛筆を手渡すと、その二つに目を白黒させて戸惑い、どうして? とでも問いたげに首を傾げて見上げるるりの頭を撫でる。
「描きたいものを、描いてごらん」
かつて絵を描くきっかけを与えてくれた先生が、俺にくれた言葉を自分が使うとは思っていなかった。
なんとなく面映ゆい気持ちでいると、るりはぱぁっと華やかに笑って玄上に対するように素直にこくりと頷いた。
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