とある画家と少年の譚

Kokonuca.

文字の大きさ
上 下
51 / 192
破瓜

1

しおりを挟む



 余程の馬鹿面を晒していたのか、翠也は俺の視線を避けるように身を引いて項垂れた。

「女の身でもないのに、何をと思ってしまうのですが……」

 けれど、と続ける。

「僕は……」

 言葉を探しあぐねた翠也は言葉を切った。

「……発作を抑えるためなのは承知ですが、それでも、あ 貴男に、好いて欲しいと思うんです」

 恥じらいを含む思いつめた顔で俺を見る。

「ここに袋なんてないのに、……卯太朗さんの  子種を含みたいって……」

 ぱたりと俺の手の甲に涙が落ち、銀の軌跡を残して服に沁み込んでいく。

「だから……卯太朗さん」

 泣きながら俺の首にしがみついた。

 
「情けをください」


 蚊の鳴くほどのその声が、彼の精一杯さを物語る。
 震えるほど強くしがみついた翠也の涙で首筋が濡れて冷たいはずなのに、どうしてか温かいと思ってしまう。

 翠也が絞り出した言葉が嬉しかった。

 なのに、それ以上に苦しくて……

 息苦しさを訴える肺に喘ぐように息を入れ、翠也の小さな顔を両手で包み込んだ。
 こちらに顔を向けようとしても、視線を逸らして俺を見ようとはしない。
 
「翠也」

 名前を呼ぶと叱られた子供のように不承不承ながらにやっとこちらを見た。

 涙で濡れた桃の頬。
 噛み締めた紅い唇。
 鮮やかに濡れた瞳。

 それらを見て美しいと思っていた気持ちが、愛しいにすり替わっていることに気づく。

 絵に留めることができたらいいと言う思いが、いつの間にか触れたくなった。

 触れたらもっと欲しくなって……

 質の悪い熱病のように彼に焦がれて手を伸ばす自分がいた。
 蜘蛛の如く彼を絡め捕ったはずが、羽虫が火に誘われるように彼に焼かれてしまったようだ。

 身分違いなのだと納得したはずだし、承知もしている。

 けれど、たまらなく欲しくて。

「……」

 一線を越えなければ、風邪が治るように彼への好奇心も薄れると楽観していた。
 なのにそう言うことに疎い翠也が必死に絞り出した言葉が、胸の奥をくすぐったいように締めつける。

 俺の言葉を待つ彼の目に再び涙が盛り上がり、玻璃のような光を湛えて……

 また、後悔するのだと思う。

 多恵の時のように、何も支える力を持たないのに手に入れると後悔する。
 
 わかっている、知っているのに抗いようもなく俺は翠也の唇に口づけた。
 ちゅく と滑らかな柔肌に吸いつくと、翠也の体がはっと身じろぐ。

「う  た、ろ……さ……」

 彼自身、事態が把握できてなかったのか不安げに服を握り締めてきたのはしばらくしてからだった。

 柔らかな唇は女のそれと大差ない。
 むしろ時折かさついていた多恵のものよりもしっとりとした滑らかさだ。


しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

処理中です...