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藤の女
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しおりを挟むみつ子が閉められた窓を見てほっと胸を撫で下ろす。
「奥様達はまだ?」
「えぇ、黒田のお屋敷にいかれたのでしたら、ごゆっくりされてくるでしょう。雨も降り始めましたし、小降りになるのをお待ちになるかもねぇ」
「懇意なのだね」
「女学校からの仲とおっしゃっていたかしらねぇ? あぁ、夕餉はどうされます?」
問われて考え込む。
最近は翠也と取ることが多いためか、独りで食べると言う感覚が寂しく思えて……
「……もう少し待ってみますよ」
「でしたら、準備だけしておきますね」
そう言うと忙しそうに母屋へと戻っていった。
写生帳と睨み合い、二羽の配置を考える。
「霍公鳥……」
てっぺんたけたか の鳴き声以外に強いて印象にない。
川蝉ならば鮮やかな羽の色の印象があったりと、多少は思うところもあるのだが……
どうしたものかと考えていると、みしりと小さな音を耳が拾った。
顔を上げて首を傾げる。
「…………」
気のせいかと視線を戻そうとした時、また小さくみしりと音がした。
雨音を縫うようにして届いたそれに腰を上げて廊下を覗くと、洋装の翠也が自室に戻るところだった。
「声くらい、掛けてくれてもいいんじゃないか?」
はっとしたようにこちらを向いたけれど、翠也の視線は足元を這う。
「考え込まれているようだったから……」
けれど視線は上がらず、その様子にまた何かあったのかと思いながら近づく。
峯子と出かけるのを後押ししたのを恨んでいるのかとも思わなくもなかったが、それでは出がけよりも落ち込んでいることの説明がつかない。
「雨、良く降ってるね」
「……このところ降りませんでしたから、良いお湿りですね」
俯いていた頭を更に下げて自室に入ろうとした翠也の腕を取って止める。
「何かあったのかい?」
こちらをはっと見上げた瞳の揺らぎは図星を射られたからか?
「俺には話せないこと?」
尋ねた俺に、翠也は長い沈黙を返す。
遠くから聞こえる絶え間ない雨の音に堪らなくなって、「夕餉は?」と問いかけた。
「 先方でいただいたので……」
「そうか、この時間だものな。じゃあ俺もいただいてくるよ」
そう言って母屋へ向かおうとすると、くぃっと袖が引かれる。
「食べては? 僕を待っててくださったのですか?」
「あ? あぁ」
ふぅっと眉を寄せて「ごめんなさい」と蚊の鳴くような声が零れた。
「いや、作業に夢中になってただけだから」
頭を撫でていこうとするが、袖を掴む手は離れない。
「……っ」
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するりと頬を撫でると、彼は唇を噛み締めたまま素直にこくりと頷いた。
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