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闇夜の皓
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しおりを挟む「舐めさせて」
そう耳元で囁く。
でたらめな病、
でたらめな発作、
けれどいつの間にか真実になったらしい。
今、翠也が欲しくてたまらない。
「ほん……本当に発作ですか? ……この間のようにからかいたいだけじゃないんですか?」
それに答えず腕の内側を舐めた。
「 や、止めてください……」
拒否の言葉は震え、けれどはっきりと吐き出される。
「からかわれるのは……いや、です」
「からかう?」
舌に広がる翠也の味に、ささくれていた気持ちがふぅっと凪ぐ。
ここ最近、昼夜を問わず俺を苛んでいた御し難い感情が宥められる。
「からかってなんか、ない」
ふ と息を耳に吹き込み、力の緩んだところを抱き留めた。
香と、汗と、それから早い脈。
「君がいないと苦しいんだ」
耳朶を舐めると、いやいやと子供のように首を振る。
「どうして?」
「僕じゃ、なくても……っ」
毛の跳ねる項に唇を落とすと、突っぱねていた手が一転して縋りついて……
必死に体を支えようとしているのか服を掴む手が小刻みに震えている。
「やめて……くだ さ 」
けれど言葉は頑なだった。
ともすれば俺の舌に堕ちそうになるのを必死で堪え、歯を食いしばる姿は命を刈りとられんとする瞬間の小動物のようだ。
それを、そのままなだれ込むようにして工房へと連れ込む。
もがく彼を押し倒し、乱れた着物から見えた鎖骨の薄い皮膚を舐める。
「ぅ……あっ」
俺の舌に反応して体を跳ねさせるも、慌てて腕を突き出して拒絶を示す。
「どうして? 発作のためならば舐めさせてくれるのだろう?」
「っ 貴男には! ……貴男には他にいるでしょう?」
言われて多恵のあの白い顔が浮かびはしたが、そんなことはないとかき消した。
「誰のことを?」
尋ねて、ふと思う。
「君はもしや、誰かに妬いているのか?」
はっとしたように開きかけた唇を引き結んで、翠也は繰り返し首を振る。
「そんなんじゃ……」
けれど、瞳は狼狽に震えていた。
「……そうか、君にここまで拒絶されてしまうんじゃ、俺は他に誰か探さなくてはならないな」
俺の言葉に戸惑う目が見開かれ、体を離そうとした俺の腕に縋りついてくる。
「あ……あの人のところへ?」
「あの人がわからないんだが」
できる限り冷たく言い、縋りつく腕を引きはがす。
内心では、どう転ぶだろうかと戦々恐々だった。
自惚れと言われようとも、先程から翠也の頑なさが何かしらの勘違いからくる嫉妬なのだとしたら?
つついて、本心が漏れてくれたらと祈る。
「昼間……だ、抱き合ってらした……」
「昼間?」
鴛鴦に手こずってすっかり籠りきりの生活のせいか、今日会ったのはみつ子と玄上だけだった。
「玄上のことか?」
そう自分に問うように言うと、翠也の眉がきゅっと皺を刻んだ。
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