とある画家と少年の譚

Kokonuca.

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透る雫

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「美しいですね、まるで宝石の雫のようです」

 ふぅっと笑みを見せてはしゃぐように手の上を見詰めている。
 色とりどりの透明の琥珀糖が彼の掌に広がり、そこはまるで海賊の宝箱をぶちまけでもしたかのようだ。

「ありがとうございます。そう言えば……お話とは?」
「あ  」

 先程の行為の後に続けていいものかと思案もしたが、雰囲気の切り替えを望むような彼の言葉に言葉を続ける。

「そう、絵が見たいと思って」

 え? と言い、彼は落ち着かなげに傍らの布に覆われた画架を見た。
 布で隠すそれをとっさに押さえようとしたようだったが、一瞬早く俺の手が先に届く。

「あっ!」
 
 薄い藍で描かれた下描きは未だに形を取っておらず、何が描かれているのかは翠也にしかわからない状態だった。

 とりとめなく線を引いただけにも見えるそれは、俺からしてみれば何を恥ずかしがるのかわからないほどだ。

「これは……?」
「これは  ────」

 なんでしょうね? と問いかける形で返され面食らっていると、翠也は小さな珊瑚色の舌の上に先程の水晶のような菓子を迎え入れた。
 
「甘い、美味しいですね。どちらでこれを?」
  
 それは誤魔化しだった。
 俺の意識を他に持って行きたいがために無理矢理に作った言葉だ。

 けれど幸いに、そんな言葉に惑わされるほどおぼこい人間ではない。

「描ききった作品はないのかい?」
「……いえ、ありますが」

 翠也の言葉は歯切れが悪く、さすらう視線は何か別の話題を探して祈っているようにもみえる。

「その……卯太朗さんの目を汚してしまうのも気が引けるので」
「俺に汚れる目なんてないよ」

 軽く返して壁にまとめて置かれている画布の方へと歩き出す。

「あっ! 本当に……っ」

 俺を追い抜き、彼はさっと画布にかけてある埃避けの布を押さえた。

「下らないものばかりですから」

 嫌々と駄々っ子のように首を振る姿に悪戯心が沸き上がる。
 わざとふらりとよろけるような態度を取り、傍らの机に手を突く。

「そんなに嫌がられると、心を病んでまた発作が起きそうだ」
「っ⁉」

 体が跳ね、先程の行為を思い出したのか首筋がふぅっと朱に染まる。

「な……なっ……病を盾に取るとは卑怯です! 不謹慎です!」
「はは、じゃあ見せてくれないか?」

 その言葉に観念したのか、彼は埃避けの布を掴んでいた手をそろりと動かした。

 さわ と彼に匂いが立ち上る。

「────  これは」

 ぽかんとした俺の態度を悪しと見たのだろう、彼は慌てて布を被せてしまう。

 隠されて行く色の氾濫は、刹那の間だったと言うのに瞳の奥に名残を残す。


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