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透る雫
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しおりを挟む差し出された腕の内側を丹念に舐める。
小さな刺激に震える翠也は、羞恥と人助けと言う大義名分の狭間で振り子のように揺れていた。
意地悪くわざと羞恥を煽るように舐めてやると、空いた手で自身の口をきつく押さえる。
「 ぁ、 っ」
それでも堪え切れない声が戯れのように零れ、自分が酷くいやらしいことをしているのだと痛感させた。
音を立てながら肩口まで口付けると、匂い立つような項が目の前に迫る。
耐えるために震えて仄かに赤く染まるそれについ誘われて、そこにも唇を運んだ。
「 ひ……」
小鳥のような震えに、更に虐めたくなって彼の両手を掴む。
「あ、あの……」
「君の声はいいね」
もっと聞きたい。
そう耳の中に囁いてやると、
「あぁ……っ」
押し殺した悲鳴が上がる。
舌を細めて耳朶の中に入れると涙を滲ませた彼の体が大きく仰け反った。
「んんっ、あ……」
翠也の頭を支えながら横たえて覆い被さると、ひくりと押し殺しきれなかったしゃくりが漏れる。
それは彼の限界の近さを俺に教えて……
「……っ、……っ」
「……翠也くん」
あやすように固く閉じられた目から流れる涙を舌先で掬い、体を起こそうとした時に小さな違和感に気がついた。
無理矢理膝を挿し込んだ翠也の脚の間、わずかに触れる首をもたげる存在に、気づいたと同時に悪寒のような罪悪感が駆け抜ける。
幾ら峯子に似ているとは言っても、男である彼がこのように愛撫を受けるなんて本意ではないだろう。
なのに俺の言った口先の軽い嘘に、善良なる気持ちを動かして耐えていてくれる。
そんな彼が生理的に拭いきれない反応に何を感じるかなんて、火を見るよりも明らかだ。
俺はそんな善良な彼に対して、自分の欲を満たすためにどれほど酷いことをしたのか……
「あ、ありがとう」
細い体の上から退き、気づかないふりをして乱れた着物を直す。
「ありがとう、落ち着いたよ」
そう、またも白々しい嘘を吐く俺を、翠也はどう思うだろうか?
仏にでも叱られた気分でそろりと翠也を見ると、白い喉をひくりと震わしながら首を振っていた。
「……僕で、お役に立てたなら」
そう言うも、彼の睫毛は金剛石で飾り付けたように雫を含んでいる。
「すまない……」
俺の居た堪れなさを感じ取ったのか、翠也は一瞬困ったような顔をしてから、さっと裾を押さえて立ち上がった。
何をするのかと見上げると、俺が放り出したままにしていた菓子の包みを持ち上げ、不器用に笑みを作って開けてもいいかと問いかけてくる。
「あ、ああ、好みのものならいいんだが」
まだ微かに震えている指を懸命に動かして、翠也は菓子の包みの紐を解く。
彼が必死にそうやって先程までの空気を払拭しようとすればするほど、残り香のように赤い目元が印象に残る。
「……あ!」
翠也の声が上がる。
明るいその声が、先程までの淫靡な世界の最後の一片を払い……
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